古典 名作の冒頭と一節
現代語訳、品詞分解もあわせて、どうぞ。
年代順になっています。
竹取物語
今は昔、竹取の翁(おきな)といふ者ありけり。
野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。
名をば、さかきの造(みやつこ)となむいひける。
その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。 あやしがりて、寄りて見るに、筒(つつ)の中(なか)光りたり。
土佐日記
男(をとこ)もすなる日記(にき)といふものを、女(をんな)もしてみむとてするなり。
それの年の十二月(しはす)の二十日(はつか)あまり一日(ひとひ)の日の戌(いぬ)の時に、門出す。
そのよし、いささかにものに書きつく。
ある人、県(あがた)の四年五年(よとせいつとせ)はてて、例(れい)のことどもみなしをえて、解由(げゆ)など取りて、住む館(たち)より出(い)でて、船に乗るべきところへわたる。
かれこれ、知る知らぬ、送りす。
年ごろよくくらべつる人々なむ、別れがたく思ひて、日しきりにとかくしつつ、ののしるうちに、夜更(ふ)けぬ。
「土佐日記」「古今和歌集・仮名序」を記したのは、紀貫之です。
古今和歌集・仮名序
やまとうたは、ひとのこころをたねとして、よろづのことの葉とぞなれりける。
世の中にある人、ことわざしげきものなれば、心におもふことを、見るもの、きくものにつけて、いひいだせるなり。
伊勢物語
むかし、をとこ、初冠(うひかうぶり)して、平城(なら)の京(みやこ)、春日(かすが)の里にしるよしして、狩に往(い)にけり。
伊勢物語 東下り すみだ河 なほ行き行きて 現代語訳 品詞分解
枕草子
春はあけぼの。
やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。
夏は夜。
月のころはさらなり。
闇(やみ)もなほ、蛍(ほたる)の多く飛びちがひたる。
また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもおかし。
雨など降るもをかし。
秋は夕暮。
夕日にさして山のはいと近うなりたるに、からすのねどころへ行くとて、みつよつ、ふたつみつなどとびいそぐさへあはれなり。
まいて雁(かり)などのつらねたるが、いとちひさくみゆるはいとをかし。
日入りはてて、風の音むしのねなど、はたいふべきにあらず。
冬はつとめて。
雪の降りたるはいふべきにもあらず。
霜のいとしろきも、またさらでもいと寒きに、火などいそぎおこして、炭もてわたるもいとつきづきし。
昼になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶(をけ)の火もしろき灰がちになりてわろし。
源氏物語
いづれの御時(おほんとき)にか、女御(にょうご)、更衣(かうい)あまた候(さぶら)ひ給(たま)ひける中(なか)に、いとやむごとなき際(きは)にはあらぬが、すぐれて時めき給(たま)ふありけり。
はじめより我(われ)はと思ひ上がり給(たま)へる御方々(おほんかたがた)、めざましきものにおとしめ嫉(そね)み給(たま)ふ。
同じほど、それより下﨟(げらふ)の更衣(かうい)たちは、まして安(やす)からず。 朝夕(あさゆふ)の宮仕(みやづかへ)につけても、人の心をのみ動かし、恨(うら)みを負(お)ふ積(つ)もりにやありけむ、いと篤(あつ)しくなりゆき、もの心細げに里(さと)がちなるを、いよいよ飽(あ)かずあはれなるものに思ほして、人のそしりをもえ憚(はばか)らせ給(たま)はず、世の例(ためし)にもなりぬべき御もてなしなり。
源氏物語「日もいと長きに」若紫との出会い 垣間見 現代語訳 品詞分解 語句・文法 その1
更級日記
あづま路(ぢ)の道の果てよりも、なほ奥つかたにおひいでたる人、いかばかりかはあやしかりけむを、いかに思ひはじめけることにか、世の中に物語といふもののあんなるを、いかで見ばやと思ひつつ、つれづれなる昼間、宵居(よひゐ)などに、姉、まま母などやうの人々の、その物語、かの物語、光源氏の有様(あるよう)など、ところどころ語るを聞くに、いとどゆかしさまされど、わが思ふままに、そらにいかでかおぼえ語らむ。
大鏡
さいつころ雲林院(うりんゐん)の菩提講(ぼだいかう)にまうでて侍りしかば例人(れいひと)よりはこよなうとしおひ(い)、うたてげなるおきな二人、おうなとい(ゆ)きあひて、おなじ所にゐぬめり。
平家物語
祇園精舎(ぎをんしやうじや)の鐘の声、諸行無常(しやぎやうむじやう)の響きあり。沙羅双樹(しやらさうじゆ)の花の色、盛者必衰(じやうしやひつすい)の理(ことわり)をあらはす。
おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
猛(たけ)き者もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵(ちり)におなじ。
方丈記
ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。
十六夜日記
昔、壁(かべ)の中よりもとめいでたりけむ書(ふみ)の名をば、今の世の人の子は、夢ばかりも身の上の事とは知らざりけりな。
徒然草
つれづれなるままに日ぐらし硯(すずり)にむかひて心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。
徒然草 おすすめ 第百五十五段 原文と現代語訳 「世に従はん人は」
奥の細道
月日は百代(はくたい)の過客(くわかく)にして、行(ゆ)きかう年もまた旅人なり。
舟の上に生涯を浮かべ、馬の口とらへて老いを迎ふる者は、日々(ひび)旅にして旅をすみかとす。
幸若舞「人間五十年下天のうちを比ぶれば夢幻のごとくなり」も解説しています → 奥の細道 末の松山 原文と現代語訳
夏草や兵どもが夢の跡 松尾芭蕉 「奥の細道」平泉 俳句 前書からの読解
閑さや岩にしみ入る蝉の声 場所と解説 「奥の細道 立石寺」現代語訳
曽根崎心中
此の世のなごり、夜もなごり、死にに行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜(しも)、一足ずつに消えて行く、夢の夢こそあはれなれ。
世間胸算用
「夢にも身過ぎの事をわするな」と、これ長者の言葉なり。
近世 江戸時代 文学史 年表「見てわかる! 縦の流れ 横の並び」
雨月物語
青々たる青の柳、家園(みその)に種(う)ゆることなかれ。
交(まじは)りは軽薄の人と結ぶことなかれ。
三人吉三廓初買
月も朧(おぼろ)に白魚(しらうお)の篝(かがり)も霞む春の空、つめたい風もほろ酔(よひ)に心持ちよく浮か浮かと、浮(うか)れ烏(がらす)の只一羽塒(ねぐら)へ帰る川端(かわばた)で、棹(さほ)の雫(しづく)か濡手(ぬれて)で粟(あわ)、思ひがけなく手に入る百両。