この御子三つになり給ふ年 現代語訳 品詞分解 源氏物語桐壺 その6
古文 紫式部の「源氏物語 桐壺」その6です。
原文、現代語訳、語句の意味・用法と記します。
源氏物語 桐壺 その6 原文
この御子三つになり給ふ年、御袴着(おんはかまぎ)の事、一の宮のたてまつりしに劣らず、内蔵寮(くらづかさ)・納殿(をさめどの)の物をつくして、いみじうせさせ給ふ。
それにつけても、世の譏(そし)りのみ多かれど、この御子のおよずけもておはする御容貌(おんかたち)、心ばへ、ありがたくめづらしきまで見え給ふを、え嫉みあへ給はず。
物の心知り給ふ人は、かかる人も世に出でおはするものなりけり、と、あさましきまで目をおどろかし給ふ。
源氏物語 桐壺 その6 現代語訳
この御子三つになり給ふ年、御袴着(おんはかまぎ)の事、一の宮のたてまつりしに劣らず、内蔵寮(くらづかさ)・納殿(をさめどの)の物をつくして、いみじうせさせ給ふ。
この御子が三つにおなりの年に、御袴着の儀式を、(先に)第一皇子がお召しになったときに劣らず、内蔵寮・納殿の財物をすべて使って盛大に催された。
それにつけても、世の譏(そし)りのみ多かれど、この御子のおよずけもておはする御容貌(おんかたち)、心ばへ、ありがたくめづらしきまで見え給ふを、え嫉みあへ給はず。
それにつけても(第二皇子の儀式が盛大に催されたことに対して)世間の非難は特に多かったけれど、この御子のだんだんとご成人なさる御容貌や御気立てが、世にもまれで珍しいまでにご立派にお見えになるのを、(他の女房方も)そう嫉みぬくこともおできにならない。
物の心知り給ふ人は、かかる人も世に出でおはするものなりけり、と、あさましきまで目をおどろかし給ふ。
物の道理をわきまえていらっしゃる方は、こんな立派なお方も人の世に生まれておいでになるものなのだなあと、ただ驚くばかりで目をみはっていらっしゃる。
源氏物語 桐壺 その6 品詞分解
この御子三つになり給ふ年、御袴着(おんはかまぎ)の事、一の宮のたてまつりしに劣らず、内蔵寮(くらづかさ)・納殿(をさめどの)の物をつくして、いみじうせさせ給ふ。
こ → 代名詞
の → 格助詞
御子 → 名詞
三つ → 名詞
に → 格助詞
なり → 動詞・ラ行四段活用・連用形
給ふ → 補助動詞・ハ行四段活用・連体形
年 → 名詞
御袴着 → 名詞
の → 格助詞
事 → 名詞
一の宮 → 名詞
の → 格助詞
たてまつり → 動詞・ラ行四段活用・連用形
し → 助動詞・過去・連体形
に → 接続助詞
劣ら → 動詞・ラ行四段活用・未然形
ず → 助動詞・打ち消し・連用形
内蔵寮 → 名詞
納殿 → 名詞
の → 格助詞
物 → 名詞
を → 格助詞
つくし → 動詞・サ行四段活用・連用形
て → 接続助詞
いみじう → 形容詞・連用形(ウ音便)
せ → 動詞・サ行変格活用・未然形
させ → 助動詞・尊敬・連用形
給ふ → 補助動詞・ハ行四段活用・終止形
それにつけても、世の譏(そし)りのみ多かれど、この御子のおよずけもておはする御容貌(おんかたち)、心ばへ、ありがたくめづらしきまで見え給ふを、え嫉みあへ給はず。
それ → 代名詞
に → 格助詞
つけ → 動詞・カ行下二段活用・連用形
て → 接続助詞
も → 係助詞
世 → 名詞
の → 格助詞
譏り → 名詞
のみ → 副助詞
多かれ → 形容詞・已然形
ど → 接続助詞
こ → 代名詞
の → 格助詞
御子 → 名詞
の → 名詞
およずけもておはする → 動詞・サ行変格活用・連体形
御容貌 → 名詞
心ばへ → 名詞
ありがたく → 形容詞・連用形
めづらしき → 形容詞・連体形
まで → 副助詞
見え → 動詞・ヤ行下二段活用・連用形
給ふ → 補助動詞・ハ行四段活用・連体形
を → 格助詞
え → 副詞
嫉みあへ → 動詞・ハ行下二段活用・連用形
給は → 補助動詞・ハ行四段活用・未然形
ず → 助動詞・打ち消し・終止形
物の心知り給ふ人は、かかる人も世に出でおはするものなりけり、と、あさましきまで目をおどろかし給ふ。
物 → 名詞
の → 格助詞
心 → 名詞
知り → 動詞・ラ行四段活用・連用形
給ふ → 補助動詞・ハ行四段活用・連体形
人 → 名詞
は → 係助詞
かかる → 動詞・ラ行変格活用・連体形
人 → 名詞
も → 係助詞
世 → 名詞
に → 格助詞
出でおはする → 動詞・サ行変格活用・連体形
もの → 名詞
なり → 助動詞・断定・連用形
けり → 助動詞・詠嘆(過去)・終止形
と → 格助詞
あさましき → 形容動詞・連体形
まで → 副助詞
目 → 名詞
を → 格助詞
おどろかし → 動詞・サ行四段活用・連用形
給ふ → 補助動詞・ハ行四段活用・終止形
語句の意味と用法
※スマホを横向きにしてご覧ください。
御袴着(おんはかまぎ)→ 初めて袴をつける儀式。
内蔵寮(くらづかさ) → 御座の近くにある倉庫。宝物、献上品、主上の年料、御服、中宮東宮の冠服、社寺の幣物などを司る。
納殿(をさめどの) → 宜陽殿にあって、歴代の御物を納める。
いみじ → 程度のはなはだしいさま。+のイメージでも、-のイメージでもいう。下にくるべき語が省略されている場合が多い。
→ いみじうせさせ給ふ → 大変立派にとりおこなわれた = 盛大に催された
譏(そし)り → 更衣腹のくせに、第二皇子であるのに、そんなに盛大におこなわずともよいだろうに、といった非難。
およずけもておはする → だんだんとご成人される。次第にご成人なさる。
→ もて → だんだんと。次第に。
ありがたく → 在(あ)ることが難しい → 稀(まれ)である。めったいにない。
え~ず → ~することができない
→ え嫉みあへ給はず → 嫉みぬくこともおできにならない
→ ~あ(敢)へ → ~し通す。~しおおせる。
物の心 → 物の道理。物事の条理。世の人情。
かかる =「かく」+「あり」→ このようにある → このような。こんな。
ものなり「けり」 → 「けり」を「過去」の意としても訳せなくはありませんが、「詠嘆」のほうが合います。 → ものだなあ。
あさましき → 「あさむ」=驚く → あまりのことにものが言えない。呆然。あんまりな。あまりにも。
→ 驚くばかり・意外。
→ 情けない・興ざめ。
→ あきれるほどひどい。
→ 見苦しい・みっともない。
おどろかし → 「おどろかす」=「おどろく」の他動詞 = ~を「おどろかす」
→ 気づかせる。
→ 目をさまさせる。
→ 目を見張る = 目を瞠(みは)る
→「目をおどろかし給ふ」→ 目をみはっていらっしゃる。
続きはこちら → その年の夏、御息所 源氏物語 桐壺 現代語訳 その7