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源氏物語 御車もいたくやつし給へり 夕顔 その2 原文と現代語訳

#用法,#紫式部,#語句

源氏物語 夕顔 その2です。

原文、現代語訳、語句の意味・用法、と記していきます。

原文

 御車もいたくやつし給へり、前駆(さき)も追はせ給はず、誰とか知らむとうちとけ給ひて、すこしさし覗(のぞ)き給へれば、門は蔀(しとに)のやうなる、押し上げたる、見入れの程(ほど)なく、ものはかなき住まひを、あはれに、何処(いづこ)かさして、と思ほしなせば、玉の台(うてな)も同じことなり。切懸(きりかけ)だつ物に、いと青やかなる葛の心地よげに這(は)ひかかれるに、白き花ぞ、おのれひとり笑(ゑみ)の眉(まゆ)開(ひら)けたる。「遠方人(をちかたびと)に物申す」と、ひとりごち給ふを、御随身(みずゐじん)つい居(ゐ)て「かの白く咲けるをなむ夕顔と申し侍(はべ)る。花の名は人めきて、かうあやしき垣根(かきね)になむ、咲きはべりける」と申す。

原文と現代語訳

 御車もいたくやつし給へり、前駆(さき)も追はせ給はず、誰とか知らむとうちとけ給ひて、すこしさし覗(のぞ)き給へれば、門は蔀(しとに)のやうなる、押し上げたる、見入れの程(ほど)なく、ものはかなき住まひを、あはれに、何処(いづこ)かさして、と思ほしなせば、玉の台(うてな)も同じことなり。

 (源氏の君の)御車も(お忍びのため)たいそう目立たぬようにしていらっしゃる、先払いもおさせにならず、自分が誰だかわかるまいと気を許されて、車の中からちょっとお覗きなさると、門は蔀のようなのを開け放しにしてあり、外からの見通しも奥行きが浅く、何か粗末な住居であるのを、しみじみと御覧になり、いづかこかさして、という古歌のようなはかない考え方をなさると、(こんな貧しい家だって)玉で飾りたてた立派な御殿だって同じことである(と悟られる)。

切懸(きりかけ)だつ物に、いと青やかなる葛の心地よげに這(は)ひかかれるに、白き花ぞ、おのれひとり笑(ゑみ)の眉(まゆ)開(ひら)けたる。

切懸めいた板塀の所に、たいそう青々とした葛が気持ちよさそうに這いまつわっていて、(その蔓に)白い花が、(辺りの暗い雰囲気の中で)自分ひとりだけ笑い顔を見せて咲いている。

「遠方人(をちかたびと)に物申す」と、ひとりごち給ふを、御随身(みずゐじん)つい居(ゐ)て「かの白く咲けるをなむ夕顔と申し侍(はべ)る。花の名は人めきて、かうあやしき垣根(かきね)になむ、咲きはべりける」と申す。

(源氏がそれを見て)「遠方人に物申す」と古歌を口ずさまれると、御随身がひざまずいて、「あの白く咲いている花を夕顔と申すのでございます。花の名前は人の名のようでして、このようなみすぼらしい垣根に咲くのでございます」と申し上げる。

語句の意味・用法

御車もいたくやつし給へり、前駆(さき)も追はせ給はず、誰と知らむとうちとけ給ひて、すこしさし覗(のぞ)き給へれば、門は蔀(しとに)のやうなる、押し上げたる、見入れ(ほど)なく、ものはかなき住まひを、あはれに、何処(いづこ)かさして、と思ほしなせば、玉の台(うてな)も同じことなり。

やつし

ここの「やつす」は、簡略し目立たぬようにする意。

誰と知らむ

「か」は反語。

人々が自分を誰と知ろうか、知りはしないだろう。

見入れ

見通し。

(ほど)

広さを表しています。

ものはかなき住まひ

「はかなし」は、しっかりしていないで頼りないこと。みすぼらしい。

何処(いづこ)かさして

古今集 読み人知らず「世の中はいづれかさして我がならむ行きとまるをば宿と定むる」によります。

「変わりゆくはかないこの世では、いずれを指して我が家とすることができよう、行き(歩み)、足の止まった所を住みかとしよう」といった意。

玉の台(うてな)

玉のように美しく立派な御殿。

切懸(きりかけ)だつ物に、いと青やかなる葛の心地よげに這(は)ひかかれるに、白き花ぞ、おのれひとり笑(ゑみ)の眉(まゆ)開(ひら)けたる

切懸(きりかけ)だつ物

柱に横板を少しずつ重ねて打ち付けた囲い。

「だつ」は接尾語で、「~めいた」意。

おのれひとり笑(ゑみ)の眉(まゆ)開(ひら)けたる

自分ひとり得意そうに咲いている。

擬人法で書かれています。

「遠方人(をちかたびと)に物申す」と、ひとりごち給ふを、御随身(みずゐじん)つい居(ゐ)て「かの白く咲けるをなむ夕顔と申し侍(はべ)る。花の名は人めき、かうあやしき垣根(かきね)になむ、咲きはべりける」と申す。

「遠方人(をちかたびと)に物申す」

古今集 旋頭歌 「うちわたすをち方人に物申すわれそのそこに白く咲けるは何の花ぞも」によります。

「はるか彼方にいらっしゃる人(あなた)に、私が申し上げる、その、そこに白く咲いているのは、何の花でしょうか」といった意。

御随身(みずゐじん)

貴族の外出に際し、武装して警護する者。近衛府の武官です。

この時、源氏は近衛中将で、本来であれば、御随身は四人付くのですが、お忍びゆえ、一人だけが従っています。

つい居(ゐ)て

「つきゐて」の音便。

膝をついて座って。

人めき

人(女の人)の名のような感じで。

この「て」は順接の接続助詞。

続きは、こちら → 源氏物語 げにいと小家がちに 夕顔 その3 原文と現代語訳