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源氏物語 げにいと小家がちに 夕顔 その3 原文と現代語訳

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紫式部 源氏物語 夕顔 その3です。

原文、現代語訳、語句の意味・用法、と記していきます。

原文

げにいと小家(こいへ)がちに、むつかしげなるわたりの、このもかのも、あやしくうちよろぼひて、むねむねしからぬ軒のつまなどに這ひまつはれたるを、「口惜(くちを)しの花の契(ちぎり)や。一房(ふさ)折りて参れ」と宣(のたま)へば、この押し上げたる門(かど)に入りて折る。さすがに、されたる遣戸口(やりどぐち)に、黄なる生絹(すずし)の単袴(ひとへ)、長く着なしたる童(わらは)の、をかしげなる出で来て、うち招く。白き扇(あふぎ)の、いたうこがしたるを、「これに置きて参らせよ。枝も情(なさ)けなげなめる花を」とて取らせたれば、門(かど)開(あ)けて惟光(これみつ)の朝臣出で来たるして、奉らす。「鍵(かぎ)を置き惑(まどは)しはべりて、いと不便(ふびん)なるわざなりや。物のあやめ見給(たま)へ分(わ)くべき人もはべらぬわたりなれど、らうがはしき大路(おほぢ)に立ちおはしまして」と、かしこまり申す。引き入れて、下(お)り給ふ。

原文と現代語訳

げにいと小家(こいへ)がちに、むつかしげなるわたりの、このもかのも、あやしくうちよろぼひて、むねむねしからぬ軒のつまなどに這ひまつはれたるを、「口惜(くちを)しの花の契(ちぎり)や。一房(ふさ)折りて参れ」と宣(のたま)へば、この押し上げたる門(かど)に入りて折る。

なるほど小さな家ばかり建ち並んだ、むさくるしそうなこのあたりに、あちらこちら、見苦しく傾きよろけた、どっしりとしていない家の軒先などに、その蔓(つる)が這いまつわっているのを(源氏は御覧になって)「気の毒な花の定めだな。一枝折りとって参れ」とおっしゃるので、(随身は)この押し上げてある門に入って、折る。

さすがに、されたる遣戸口(やりどぐち)に、黄なる生絹(すずし)の単袴(ひとへ)、長く着なしたる童(わらは)の、をかしげなる出で来て、うち招く。

(貧しい家ではあるが)さすがにしゃれた造りの遣戸の入口に黄色い生絹の単袴を裾長に来た童女のかわいらしいのが、中から出てきて、手招きをする。

白き扇(あふぎ)の、いたうこがしたるを、「これに置きて参らせよ。枝も情(なさ)けなげなめる花を」とて取らせたれば、門(かど)開(あ)けて惟光(これみつ)の朝臣出で来たるして、奉らす。

白い扇の、大層、香をたきしめてあるのを出して、「これに載せて差し上げなさいませ。枝も風情のないような花ですから」と言って、随身に渡したので、ちょうど惟光の朝臣が出てきたので、それに託して源氏に奉らせる。

「鍵(かぎ)を置き惑(まどは)しはべりて、いと不便(ふびん)なるわざなりや。物のあやめ見給(たま)へ分(わ)くべき人もはべらぬわたりなれど、らうがはしき大路(おほぢ)に立ちおはしまして」と、かしこまり申す。

惟光は、「門の鍵をどこかへ置き忘れまして、どうも申し訳ないことです。物の道理の見分けのつくような人も居りません所ですが、ごたごたした往来にお立ちになっていらっしゃいまして」と、お詫びを申し上げる。

引き入れて、下(お)り給ふ。

門内に車を引き入れて、源氏の君はお降りなさる。

現代語訳

なるほど小さな家ばかり建ち並んだ、むさくるしそうなこのあたりに、あちらこちら、見苦しく傾きよろけた、どっしりとしていない家の軒先などに、その蔓(つる)が這いまつわっているのを(源氏は御覧になって)「気の毒な花の定めだな。一枝折りとって参れ」とおっしゃるので、(随身は)この押し上げてある門に入って、折る。(貧しい家ではあるが)さすがにしゃれた造りの遣戸の入口に黄色い生絹の単袴を裾長に来た童女のかわいらしいのが、中から出てきて、手招きをする。白い扇の、大層、香をたきしめてあるのを出して、「これに載せて差し上げなさいませ。枝も風情のないような花ですから」と言って、随身に渡したので、ちょうど惟光の朝臣が出てきたので、それに託して源氏に奉らせる。惟光は、「門の鍵をどこかへ置き忘れまして、どうも申し訳ないことです。物の道理の見分けのつくような人も居りません所ですが、ごたごたした往来にお立ちになっていらっしゃいまして」と、お詫びを申し上げる。門内に車を引き入れて、源氏の君はお降りなさる。

語句の意味・用法

げにいと小家(こいへ)がちに、むつかしげなるわたりの、このもかのも、あやしくうちよろぼひて、むねむねしからぬのつまなどに這ひまつはれたるを、「口惜(くちを)しの花の契(ちぎり)。一房(ふさ)折りて参れ」と宣(のたま)へば、この押し上げたる門(かど)に入りて折る。

小家(こいへ)がちに

「小家」は、庶民の小さな家。

「がちに」は接尾語。「~ばかり多く」の意。

このもかのも

「此の面彼の面」。この辺り一帯。

うちよろぼひて 

「うち」は接頭語。

「よろけ傾いて」の意。

「軒」に、かかっています。

口惜(くちを)しの花の契(ちぎり)

「なさけない花の運命よ」。

「契」は、前世からの約束。

「や」は感動の助詞。

さすがに、されたる遣戸口(やりどぐち)に、黄なる生絹(すずし)の単袴(ひとへ)、長く着なしたる童(わらは)の、をかしげなる出で来て、うち招く。白き扇(あふぎ)、いたうこがしたるを、「これに置きて参らせよ。枝も情(なさ)けなげなめる花を」とて取らせたれば、門(かど)開(あ)けて惟光(これみつ)の朝臣出で来たるして、奉らす。

生絹(すずし)

練らない絹。

生絹 ←→ 練絹 

白き扇(あふぎ)、いたうこがしたるを

「の」は同格。

「白い扇、大層、香をたきしめてあるのを」とも訳せます。

出で来たるして

「出で来たる(人)して」

出てきた人を仲介して。

「鍵(かぎ)を置き惑(まどは)しはべりて、いと不便(ふびん)なるわざなりや。物のあやめ見給(たま)へ分(わ)くべき人もはべらぬわたりなれど、らうがはしき大路(おほぢ)に立ちおはしまして」と、かしこまり申す

不便(ふびん)なる

「不都合な」といった意。

あやめ

「道理」。

かしこまり申す

「かしこまり(を)申す」。

この「かしこまり」は名詞で、「お詫び」。

引き入れて、下(お)り給ふ。

引き入れて

門内に牛車を引き入れて。