枕詞とは 一覧 例 実践「和歌の訳し方」
枕詞(まくらことば)とは
枕詞とは、ある語句を導く前置きのことばであり、そのある語句にかかっていくことばです。
多くは、五音です。
そして、多くの場合、第一句か、第三句に置かれます。
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枕詞のある和歌
枕詞は、歌の調子を整える(語調を整える)つまりは優雅な調べのためにあります。
だから、歌を口語訳する際、枕詞自体は訳しません。
例
ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
「古今和歌集」にある紀友則の歌です。
第一句の「ひさかたの」に注目してください。
この「ひさかたの」は、「光」を導く前置きのことばとしてあります。
この「ひさかたの」は、「光」にかかっている枕詞です。
「ひさかたの光」で、一つの「調べ」、調和、ハーモニーです。
実践 和歌の訳し方
※スマホを横向きにしてご覧ください
実際に訳していきましょう。
ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ
ひさかたの → 枕詞だから訳しません
光 → この「光」は、「日の光」
のどけき → 「のどけし」という形容詞だから、現代語訳では「形容詞(~い)」か、「形容動詞(~な)」で訳します → 「のどかな」
春 → 名詞だから、このまま「春」
の → 格助詞だから、このまま「の」
日 → 名詞だから、このまま「日」
に → 格助詞だから、このまま「に」
→ 「春の日に」
しづ心 → 静心 → 「しずかな心」「落ち着いた心」
なく → 「なし」という形容詞 → 「ない」という状態 → 「なく」
→ 静心なく → 「落ち着いた心(も)なく」
花 → 名詞だから、このまま「花」 → この時代の「花」といえば「桜」 → 「桜の花」
の → 格助詞だから、このまま「の」
→ 「桜の花の」
散る → 動詞 → 現代語訳でも、そのまま → 「散る」
らむ → 助動詞 → 現在の動作の原因・理由を推量 → 現在のことに関し、確かかどうか、あるいは、どうしてなのかと疑念をこめます → この歌のように、疑問を表す語が一緒に記されていない場合、「どうして~なのだろう」と訳します
訳
日の光がのどかな春の日に、桜の花はどうして落ち着きなく散ってしまうのだろう。
原文に合わせた訳です。
少しだけ掘り下げてみましょう。
この歌は、「春の日」と「桜の花」が対置されています。
→ ひさかたの光のどけき春の日 ←→ しず心なく花の散る
この対置を、より強調して訳すなら
→ こんなにも日の光がのどかな春の日に、桜の花はどうして落ち着きなく散ってしまうのだろう。
あるいは
→ こんなにも日の光がのどかな春の日なのに、桜の花はどうして落ち着きなく散ってしまうのだろうか。
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三大和歌集 万葉集、古今和歌集、新古今和歌集の比較 三代集・八代集の覚え方
以下、主な枕詞の一覧です。
導く語句とあわせて、覚えてしまいましょう。
枕詞 一覧 あいうえお順
あかねさす(茜刺す) → 紫・日・昼・月
あきのよの(秋の夜の) → 長し
あしひきの(足引きの) → 山・峯(を)
あづさゆみ(梓弓) → 引く・張る・本(もと)・末(すゑ)
あまざかる(天離る) → 鄙(ひな)・日・向かふ
あらたまの(新玉の) → 年(とし)・月・日
あをによし(青丹よし) → 奈良
いそのかみ(石上) → 古る・降る
いはばしる(石走る) → 垂水(たるみ)・近江(あふみ)
うつせみの(空蝉の) → 世・身・命・人
うばたまの(烏羽玉の) → 夜・夢・黒
からごろも(唐衣) → 裾(すそ)・紐(ひも)・着る
草枕(くさまくら) → 旅・結ぶ・露
くずのはの(葛の葉の) → 裏・恨み
ささなみの(楽浪の) → 志賀・大津
しきしまの(敷島の) → 大和(やまと)【国名】
しろたへの(白妙の) → 衣・袖(そで)・袂(たもと)・雪
たまきはる(魂極る) → 命・世・宇智(うち)【地名】
たまくしげ(玉櫛笥) → 開く・明く(あく)・蓋(ふた)
たまもなす(玉藻なす) → 靡く(なびく)・寄る・浮ぶ
たらちねの(垂乳根の) → 母・親
ちはやぶる(千早振る) → 神・社
つがのきの(樛の木の) → つぎつぎ
つゆじもの(露霜の) → 消(け)・置く・過ぎ
とりがなく(鳥が啼く) → 東(あづま)【地方名】
たまほこの(玉鉾の) → 道・里人(さとびと)
ぬばたまの(射干玉の) → 夜・夕・夢・黒き・闇(やみ)
ひさかたの(久方の) → 月・光・天(あめ)・雨
ふゆごもり(冬籠り) → 春・張る
ももしきの(百敷の) → 大宮
やくもたつ(八雲立つ) → 出雲(国名)
ゆふづくよ(夕月夜) → 小倉山(をぐらやま)【山名】
わかくさの(若草の) → 夫(つま)・妻
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