御局は桐壺なり 品詞分解 現代語訳 源氏物語 桐壺 その5
紫式部の「源氏物語 桐壺」その5です。
原文、現代語訳、品詞分解、語句の意味・用法、解釈、と記します。
源氏物語 桐壺 その5 原文
かしこき御蔭(おかげ)をば頼み聞えながら、貶(おと)しめ疵(きず)を求め給ふ人は多く、わが身はか弱くものはかなきありさまにて、なかなかなる物思ひをぞし給ふ。
御局(みつぼね)は桐壺なり。
あまたの御方々を過ぎさせ給ひて、𨻶(ひま)なき御前わたりに、人の御心をつくし給ふも、げに道理(ことわり)と見えたり。
参う上り給ふにも、あまりうち頻(しき)る折々は打橋(うちはし)・渡殿(わたどの)、ここかしこの道に、あやしきわざをしつつ、御送り迎への人の衣の裾(すそ)、堪へ難く、まさなき事もあり。
またある時には、えさらぬ馬道(めだう)の戸をさしこめ、こなたかなた、心をあはせて、はしたなめわずらはせ給ふ時も多かり。
事にふれて、数知らず苦しき事のみまされば、いといたう思ひわびたるを、いとどあはれと御覧じて、後凉殿(こうらうでん)にもとより侍ひ給ふ更衣の曹司(ざうし)を、外に移させ給ひて、上局(うはつぼね)に賜はす。
そのうらみましてやらむ方なし。
源氏物語 桐壺 その5 現代語訳
かしこき御蔭(おかげ)をば頼み聞えながら、貶(おと)しめ疵(きず)を求め給ふ人は多く、わが身はか弱くものはかなきありさまにて、なかなかなる物思ひをぞし給ふ。
(更衣は)恐れ多い帝の御庇護をば頼りにし申し上げてはいるものの、(自分のことを)貶(けな)し蔑(さげす)みあら探しをなさる方は多く、自分自身はか弱く何となく心細い状態なので、かえって(御寵愛を受けないほうがよい)と気苦労をなされる。
御局(みつぼね)は桐壺なり。
宮中でのお部屋は桐壺である。
あまたの御方々を過ぎさせ給ひて、𨻶(ひま)なき御前わたりに、人の御心をつくし給ふも、げに道理(ことわり)と見えたり。
(帝が)多くの后妃方(こうひがた)の御殿をお通りすぎになって、ひっきりなしにお出向きになるので、他の后妃方がやきもきなさるのも、なるほどもっとものことと見えた。
参う上り給ふにも、あまりうち頻(しき)る折々は打橋(うちはし)・渡殿(わたどの)、ここかしこの道に、あやしきわざをしつつ、御送り迎への人の衣の裾(すそ)、堪へ難く、まさなき事もあり。
(更衣が)清涼殿に参上なさるにも、(それが)あまりに頻繁である折々には(途中の)打橋や渡殿やあちこちの道に、きわめてけしからぬことをして、(更衣を)送り迎えする女官達の着物の裾がたまらないほど、不都合なこともある。
またある時には、えさらぬ馬道(めだう)の戸をさしこめ、こなたかなた、心をあはせて、はしたなめわずらはせ給ふ時も多かり。
またある時には、どうしても通らなければならない馬道の戸を(更衣が中にいるにもかかわらず)両方でとじこめ、こちらとあちらとでしめしあわせて、(更衣に)ばつの悪い思いをさせ、困らせなさる時も多い。
事にふれて、数知らず苦しき事のみまされば、いといたう思ひわびたるを、いとどあはれと御覧じて、後凉殿(こうらうでん)にもとより侍ひ給ふ更衣の曹司(ざうし)を、外に移させ給ひて、上局(うはつぼね)に賜はす。
こうして何かにつけて無数に苦しいことばかり多くなってゆくので、(更衣が)ひどく思い嘆いているのを、(帝は)たいそう不憫(ふびん)と御覧になって、後涼殿にもとから住んでいらっしゃる更衣の部屋を、他の場所にお移しになられて、(その更衣の部屋を桐壺の更衣に)上局としてお下しになる。
そのうらみましてやらむ方なし。
(他の更衣方の)その恨みはさらに晴らしようがない。
源氏物語 桐壺 その5 品詞分解
かしこき御蔭(かげ)をば頼み聞えながら、貶(おとし)め疵(きず)を求め給ふ人は多く、わが身はか弱くものはかなきありさまにて、なかなかなる物思ひをぞし給ふ。
かしこき → 形容詞・連体形
御蔭 → 名詞
を → 格助詞
ば → 係助詞
頼み → 動詞・マ行四段活用・連用形
聞え → 補助動詞・ヤ行下二段活用・連用形
ながら → 接続助詞
貶しめ → 動詞・マ行・下二段活用・連用形
疵 → 名詞
を → 格助詞
求め → 動詞・マ行・下二段活用・連用形
給ふ → 補助動詞・ハ行四段活用・連体形
人 → 名詞
は → 係助詞
多く → 形容詞・連用形
わ → 代名詞
が → 格助詞
身 → 名詞
は → 係助詞
か弱く → 形容詞・連用形
ものはかなき → 形容動詞・連体形
ありさま → 名詞
に → 助動詞・断定・連用形
て → 接続助詞
なかなかなる → 形容詞・連体形
物思ひ → 名詞
を → 格助詞
ぞ → 係助詞
し → 動詞・サ行変格活用・連用形
給ふ → 補助動詞・ハ行四段活用・連体形
御局(みつぼね)は桐壺なり。
御局 → 名詞
は → 係助詞
桐壺 → 名詞
なり → 助動詞・断定・終止形
あまたの御方々を過ぎさせ給ひて、𨻶(ひま)なき御前わたりに、人の御心をつくし給ふも、げに道理(ことわり)と見えたり。
あまた → 名詞
の → 格助詞
御方々 → 名詞
を → 格助詞
過ぎ → 動詞・上二段活用・未然形
させ → 助動詞・尊敬・連用形
給ひ → 補助動詞・ハ行四段活用・連用形
て → 接続助詞
𨻶なき → 形容詞・連体形
御前わたり → 名詞
に → 格助詞
人 → 名詞
の → 格助詞
御心 → 名詞
を → 格助詞
つくし → 動詞・サ行四段活用・連用形
給ふ → 補助動詞・ハ行四段活用・連体形
も → 係助詞
げに → 副詞
道理 → 名詞
と → 格助詞
見え → 動詞・ヤ行下二段活用・連用形
たり → 助動詞・完了・終止形
参う上り給ふにも、あまりうち頻(しき)る折々は打橋(うちはし)・渡殿(わたどの)、ここかしこの道に、あやしきわざをしつつ、御送り迎への人の衣の裾(すそ)、堪へ難く、まさなき事もあり。
参う上り → 動詞・ラ行四段活用・連用形
給ふ → 補助動詞・ハ行四段活用・連体形
に → 格助詞
も → 係助詞
あまり → 副詞
うち頻る → 動詞・ラ行四段活用・連体形
折々 → 名詞
は → 係助詞
打橋 → 名詞
渡殿 → 名詞
ここ → 代名詞
かしこ → 代名詞
の → 格助詞
道 → 名詞
に → 格助詞
あやしき → 形容詞・連体形
わざ → 名詞
を → 格助詞
し → 動詞・サ行変格活用・連用形
つつ → 接続助詞
御送り迎へ → 名詞
の → 格助詞
人 → 名詞
の → 格助詞
衣 → 名詞
の → 格助詞
裾 → 名詞
堪へ難く → 形容詞・連用形
まさなき → 形容詞・連体形
事 → 名詞
も → 係助詞
あり → 動詞・ラ行変格活用・終止形
またある時には、えさらぬ馬道(めだう)の戸をさしこめ、こなたかなた、心をあはせて、はしたなめわずらはせ給ふ時も多かり。
また → 副詞
ある → 連体詞
時 → 名詞
に → 格助詞
は → 係助詞
え → 副詞
さら → 動詞・ラ行四段活用・未然形
ぬ → 助動詞・打ち消し・連体形
馬道 → 名詞
の → 格助詞
戸 → 名詞
を → 格助詞
さしこめ → 動詞・マ行下二段活用・連用形
こなた → 代名詞
かなた → 代名詞
心 → 名詞
を → 格助詞
あはせ → 動詞・サ行下二段活用・連用形
て → 接続助詞
はしたなめ → 動詞・マ行・下二段活用・連用形
わずらは → 動詞・ハ行四段活用・未然形
せ → 助動詞・使役・連用形
給ふ → 補助動詞・ハ行四段活用・連体形
時 → 名詞
も → 係助詞
多かり → 形容詞・終止形
事にふれて、数知らず苦しき事のみまされば、いといたう思ひわびたるを、いとどあはれと御覧じて、後凉殿(こうらうでん)にもとより侍ひ給ふ更衣の曹司(ざうし)を、外に移させ給ひて、上局(うはつぼね)に賜はす。
事 → 名詞
に → 副助詞
ふれ → 動詞・ラ行下二段活用・連用形
て → 接続助詞
数 → 名詞
知ら → 動詞・ラ行四段活用・未然形
ず → 助動詞・打ち消し・連用形
苦しき → 形容詞・連体形
事 → 名詞
のみ → 副助詞
まされ → 動詞・ラ行四段活用・已然形
ば → 接続助詞
いと → 副詞
いたう → 副詞
思ひわび → 動詞・バ行上二段活用・連用形
たる → 助動詞・完了・連体形
を → 格助詞
いとど → 副詞
あはれ → 形容動詞(語幹)
と → 格助詞
御覧じ → 動詞・サ行変格活用・連用形
て → 接続助詞
後凉殿 → 名詞
に → 格助詞
もと → 名詞
より → 格助詞
侍ひ → 動詞・ハ行四段活用・連用形
給ふ → 補助動詞・ハ行四段活用・連体形
更衣 → 名詞
の → 格助詞
曹司 → 名詞
を → 格助詞
外 → 名詞
に → 格助詞
移さ → 動詞・サ行四段活用・未然形
せ → 助動詞・尊敬・連用形
給ひ → 補助動詞・ハ行四段活用・連用形
て → 接続助詞
上局 → 名詞
に → 格助詞
賜はす → 動詞・サ行下二段活用・終止形
そのうらみましてやらむ方なし。
そ → 代名詞
の → 格助詞
うらみ → 名詞
まして → 副詞
やらむ方なし → 形容詞・終止形
語句の意味 用法 解釈
頼み聞えながら → 「ながら」→ 活用語の連用形に接続する接続助詞 → 二つの動作の並行を表します → +のイメージと-のイメージの動作が並べば、「~けれでも」「~にもかかわらず」「~ものの」といった訳になります → 本文は、「頼りにする」と「物思ひをぞし給ふ」の並行 → 頼りにし申し上げているものの、~気苦労をなさる。
疵を求む → むりに、人の欠点を探り求める
なかなか → 中間にあって、どっちつかず、曖昧な状態 → かえって・なまじっか
御局(みつぼね)は桐壺なり → 桐壺というお部屋は、清涼殿から遠い、ということをいっています。清涼殿は、帝の常の居所。
局 = 部屋 = 曹司
桐壺 → 清涼殿の東北にあって、壺に桐が植えられていました。
壺 = 庭
清涼殿 ━ 承香殿 ━ 麗景殿 ━ 宣耀殿 ━ 桐壺 というように清涼殿と桐壺は距離がありました。間には、「あまたの御方々」がいたわけです。
心をつくす → 気をもむ
げに → なるほど・まことに
道理(ことわり) → もっともである。無理もない。
うち頻(しき)る → 頻繁に~する
打橋 → 土間なにど掛ける板橋
渡殿 → 殿舎から殿舎への渡り廊下
あやしきわざ → けしからぬこと → 「着物の裾がたまらなくなるようなこと」で、どうやら、汚物を撒(ま)いたようです。
まさなき → よろしくない
えさらぬ → 避けることのできない → 「え」は可能の意。「さらぬ」は、「避る」の未然形「避ら」+打ち消し「ず」の連体形「ぬ」。
馬道 → 殿中を貫いて直行できるような長廊下。出入り口に妻戸があります。
思ひわぶ → 思い嘆く。思い悩む。思い悲しむ。
いとど → いっそう・ひとしお
後凉殿 → 清涼殿の西にある殿舎。別殿ともいいます。
移させ給ひ → 「せ」 → 高貴の人がすること、させることは、表裏です。尊敬と使役は、表裏の意味なんです。→ こちらもどうぞ 敬語 させていただく 成り立ちを知れば、使い方も変わる
上局(うはつぼね) → 平生(へいぜい)の局を「下局」といい、この下局以外で、御座所の近くにある部屋が「上局」。弘徽殿、藤壺は、清涼殿内に上局があります。でも、桐壺にはないので、「帝」は「後凉殿」の部屋を「桐壺の更衣」にくださったわけです。
続きは、こちら → この御子三つになり給ふ年 現代語訳 品詞分解 源氏物語桐壺 その6
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