〇本サイトには、広告が表示されます。

 

 

徒然草 五条内裏には妖物ありけり 第二百三十段 原文と現代語訳

#吉田兼好_卜部兼好,#用法,#語句,#随筆

卜部兼好(吉田兼好)の徒然草、第二百三十段です。

原文、現代語訳、語句の意味・用法、と記していきます。

原文

 五条内裏(ごでうのだいり)には、妖物(ばけもの)ありけり。藤(とう)大納言殿、語られ侍りしは、殿上人(てんじゃうびと)ども、黒戸(くろど)にて碁(ご)を打ちけるに、御簾(みす)を掲(かか)げて見るものあり。「誰(た)そ」と見向きたれば、狐(きつね)、人のやうについゐて、さし覗(のぞ)きたるを、「あれ狐よ」と、とよまれて、惑(まど)ひ逃げにけり。未練(みれん)の狐、化け損じけるにこそ。

原文と現代語訳

五条内裏(ごでうのだいり)には、妖物(ばけもの)ありけり。

五条(ごじょう)の内裏には、ばけものが住んでいた。

藤(とう)大納言殿、語られ侍りしは、殿上人(てんじゃうびと)ども、黒戸(くろど)にて碁(ご)を打ちけるに、御簾(みす)を掲(かか)げて見るものあり。

藤大納言殿が(私に)お話になりましたことは(次のようでした)、殿上人たちが黒戸で碁を打っ(てい)た時に、御簾を持ち上げて見る者がある。

「誰(た)そ」と見向きたれば、狐(きつね)、人のやうについゐて、さし覗(のぞ)きたるを、「あれ狐よ」と、とよまれて、惑(まど)ひ逃げにけり。

「誰だ」と振り向いて見ると、狐が、人のようにかしこまって座って中を覗いているのを、「あら、狐だ」と騒がれて、(狐は)あわてて逃げてしまった。

未練(みれん)の狐、化け損じけるにこそ。

(化け方の)未熟な狐が、化け損ねたのであろう。

現代語訳

 五条(ごじょう)の内裏には、ばけものが住んでいた。藤大納言殿が(私に)お話になりましたことは(次のようでした)、殿上人たちが黒戸で碁を打っ(てい)た時に、御簾を持ち上げて見る者がある。「誰だ」と振り向いて見ると、狐が、人のようにかしこまって座って中を覗いているのを、「あら、狐だ」と騒がれて、(狐は)あわてて逃げてしまった。(化け方の)未熟な狐が、化け損ねたのであろう。

語句の意味・用法

五条内裏(ごでうのだいり)には、妖物(ばけもの)ありけり

五条内裏

五条の東洞院の里内裏(六条・高倉・安徳の皇后)のこと。※里内裏とは、内裏の外に設けられた御所のこと。また、亀山天皇が元大宮院を内裏とし、これを五条内裏とも呼びます。

妖物(ばけもの)ありけり

「き」は直接、自分が経験したことの回想、「けり」は他者からの伝聞の回想、その訳し方を忠実にすれば、「ばけものが住んでいたそうだ」。

藤(とう)大納言殿、語られ侍りしは、殿上人(てんじゃうびと)ども、黒戸(くろど)にて碁(ご)を打ちけるに、御簾(みす)を掲(かか)げて見るものあり。

藤(とう)大納言殿

藤原為世(ためよ)や藤原為氏(ためうじ)とする説あれど、定かではありません。

黒戸(くろど)

清涼殿(せいりょうでん)の萩戸(はぎのと)の北の廊下の西側にある戸。また、この黒戸のある廊下の辺りをいう。※清涼殿は、天皇が日常生活を送り、政務もおこなった御殿です。こちらも、どうぞ→古典の知識 平安時代 ちなみに、卜部兼好(吉田兼好)は鎌倉時代末期から南北朝時代を生きた人です。

「誰(た)と見向きたれば、狐(きつね)、人のやうについゐて、さし覗(のぞ)きたるを、「あれ狐よ」と、とよまて、惑(まど)ひ逃げにけり。

「誰(た)

「誰だ」の意。「そ」は「ぞ」と同じ。「誰そ」は、濁らず、いつも清音で「そ」です。

ついゐて

「ついゐる」は、「突き居る」。かしこまる、安座する意。

あれ

この「あれ」は、代名詞ではなく、感動詞。「あれ!」「あら!」の意。

とよま

「とよむ」は、声にたてて騒ぐ。「れ」は受身。

未練(みれん)の狐化け損じけるにこそ

未練(みれん)の狐

未熟練の狐。

化け損じけるにこそ

化け損なったのであろう。「こそ」の下に、「ありけめ」などの省略があります。

2024年8月21日「雑記帳」#吉田兼好_卜部兼好,#用法,#語句,#随筆

Posted by 対崎正宏