徒然草 第三段 よろづにいみじくとも 原文と現代語訳
卜部兼好(吉田兼好)の徒然草、第三段です。原文、現代語訳、語句の意味・用法、と記していきます。
原文
よろづにいみじくとも、色好(この)まざらん男(をのこ)は、いとさうざうしく、玉の杯(さかづき)の底(そこ)なきここちぞすべき。露霜(つゆじも)にしほたれて、所定めず惑(まど)ひありき、親の諫(いさめ)、世の謗(そしり)をつつむに心の暇(いとま)なく、あふさきるさに思ひみだれ、さるは独寝(ひとりね)がちにまどろむ夜(よ)なきこそをかしけれ。さりとて、ひたすらたはれたる方(かた)にはあらで、女にたやすからず思はれんこそ、あらまほしかるべきわざなれ。
原文と現代語訳
よろづにいみじくとも、色好(この)まざらん男(をのこ)は、いとさうざうしく、玉の杯(さかづき)の底(そこ)なきここちぞすべき。
万事にすぐれていても、恋の情趣を理解しなかろうような男は、はなはだ物足りなく、玉の盃の底がないような気がきっとするであろう。
露霜(つゆじも)にしほたれて、所定めず惑(まど)ひありき、親の諫(いさめ)、世の謗(そしり)をつつむに心の暇(いとま)なく、あふさきるさに思ひみだれ、さるは独寝(ひとりね)がちにまどろむ夜(よ)なきこそをかしけれ。
(夜の)露にうたれ、(暁の)霜にぬれて、どこということなくあちこち歩きまわり、親の意見や世間の非難をはばかることで心の余裕もなく、一方がよければ一方が悪いというようなことで思い乱れ、そのくせ独り寝することが多くて(煩悶【はんもん】のため)とろとろと眠る夜もない(というような)のこそおもしろい。
さりとて、ひたすらたはれたる方(かた)にはあらで、女にたやすからず思はれんこそ、あらまほしかるべきわざなれ。
とはいっても、ただむやみに色にふけるというのではなくて、女からくみしやすい人だと思われなかろうことこそ、望ましいはずのことである。
現代語訳
万事にすぐれていても、恋の情趣を理解しなかろうような男は、はなはだ物足りなく、玉の盃の底がないような気がきっとするであろう。(夜の)露にうたれ、(暁の)霜にぬれて、どこということなくあちこち歩きまわり、親の意見や世間の非難をはばかることで心の余裕もなく、一方がよければ一方が悪いというようなことで思い乱れ、そのくせ独り寝することが多くて(煩悶【はんもん】のため)とろとろと眠る夜もない(というような)のこそおもしろい。とはいっても、ただむやみに色にふけるというのではなくて、女からくみしやすい人だと思われなかろうことこそ、望ましいはずのことである。
語句の意味・用法
よろづにいみじくとも、色好(この)まざらん男(をのこ)は、いとさうざうしく、玉の杯(さかづき)の底(そこ)なきここちぞすべき。露霜(つゆじも・つゆしも)にしほたれて、所定めず惑(まど)ひありき、親の諫(いさめ)、世の謗(そしり)をつつむに心の暇(いとま)なく、あふさきるさに思ひみだれ、さるは独寝(ひとりね)がちにまどろむ夜(よ)なきこそをかしけれ。さりとて、ひたすらたはれたる方(かた)にはあらで、女にたやすからず思はれんこそ、あらまほしかるべきわざなれ。
さうざうしく
物足りなく
露霜(つゆじも・つゆしも)
露や霜。
しほたれ
着物が濡れる。
つつむに
「つつむ」は、はばかる、気兼ねする。
「つつむに」は、「つつむことによりて」の意。
さるは
「さあるのは」の約。
「そうあのるのは実は」「そのくせ実は」「そうはいうものの」といった意。
たやすからず
この「た」は接頭語。