大人の「読む力」の「はじめに」 原形
この「はじめに」は、論理的思考力が飛躍的に高まる 大人の読む力の「『はじめに』の原形」です。
本来のものです。
はじめに
脳内の言葉を動かしているのはあなたです。あなたの思考の力とは、あなたが言葉を扱う力です。単に、知識、言葉の数を増やすだけでは、深い思考はできません。論理的に、多様に扱えなければいけない。
あなたは、論理的に、多様に、深く、思考できていますか。
あなたの言葉の扱いは、あなたの力になっていますか。
まずは力試しをしてみましょう。次の文章は、日本経済新聞の「春秋」からのものです。
日本初の八時間労働制は、一九一九年(大正八年)、神戸の川崎造船所という会社で生まれたとされる。美術品の収集家としても知られる当時の社長の松方幸次郎が、大規模な労働争議を終結させるために、それまでの一日十時間労働を賃金は変えずに八時間に改めた。
従業員たちは歓呼した。引き続き十時間働けば残業代が別にもらえたからだ。
「川崎造船所」とあります。
どうして「川崎造船所」と記されているのでしょう。
「日本初の八時間労働制が生まれた会社だから」という答え以外で、お願いします。
「従業員たちは歓呼(喜んで声をあげること)した」とありますね。
なぜ「歓呼した」のでしょう。
「それまでの一日十時間労働を賃金は変えずに八時間に改めたから」と答える人と、「引き続き十時間働けば残業代が別にもらえたから」と答える人と分かれるでしょうか。
それなら、この二つの違いは?
書き手は、どうしてこういう書き方をしているのでしょう。
え? そんなことは、書き手に聞いてみないと、わからない?
いえ、いえ、読めば、わかります。書き方を見れば、わかります。
論理的な文章は、書き手の論理的な思考が、目に見える形になったものです。
だから、論理的に読む力を持っていれば、論理的な言葉の扱い方を知っていれば、書き手に聞かなくとも、わかるのです。
(「春秋」については、第三章で、論理的に、詳細に解説します。)
AIは、どうでしょう。書き手に聞かなくとも、今の質問、すべて答えられるでしょうか。
AIは、一定の枠内での記憶や予測で、人間を凌駕します。しかし、そこに思考は働いていません。AIは、一定の枠内で規則的な計算をしているだけです。
「春秋」の今の質問、AIには、答えることができません。
論理的に深く多様に読む力は、論理的に深く多様に思考する力で、人間だけが持つ力です。
「人間は、自然のうちで最も弱い一本の葦にすぎない。しかしそれは考える葦である」。パスカルの、「パンセ」の中の言葉です。
考えないAIは、疑問を持つこともなく、閃くこともありません。創造力もなければ、リーダーシップを発揮することもありません。
しかし、人間も、考えなかったらどうでしょう。
人間が、「考える葦」となれるのは、考えることによってのみです。考えなければ、「人間は、自然のうちで最も弱い一本の葦」のままです。
「考える葦」になれない人間は、知らず知らずのうちに、一定の枠の中に置かれ、意思のないAIに意見を求め、指示されて働くしかなくなるでしょう。
人間の特性が考えることで、思考が偉大な力であることは、パスカルの時代も今もこれからも、変わることはないのです。
思考は、言葉から成っています。思考は、言葉そのものです。思考の力とは、言葉を扱う力です。
論理的な思考をするということは、言葉を論理的に扱うということです。
母語という言葉の扱い方の、わかったつもりは、言葉の力が十全には機能していない状態です。
なにしろ、わかったつもりでは、言葉は、論理的に動けません。それで、論理的な思考の力が発揮されることはありません。
年齢を重ねれば、論理的に思考できるというものではないのです。論理的な言葉の扱い方を学ばなければ、その思考をすることはできないのです。
論理的に思考することができなければ、論理的に、読むことも、書くことも、話すことも、聞くこともできません。
論理的な思考力を持たずに、論理的に読めていると思うのは、錯覚です。
本や新聞を読んでも、多様な力を得られない、発揮することができない、というのでは、その力を持っているとはいえないでしょう。
論理的に読む力は、構造を把握する力であり、問題点を見つけ出し、それを処理する力です。観察する力であり、説明する力、聞き取る力、まとめる力です。
論理的に読む力とは、脳内で論理的に思考する力なのです。
本当に論理的な読み方ができる人は、仕事でも、論理的に思考しているものです。ごく自然に。スピーディに。
論理的な読み方ができなければ、確かな知を得ることも、そこからまた深く思考することもできません。
自分勝手な想像や思いこみによる読み方は、目の前の文章を壊してしまう読み方です。それは、論理的な思考から、もっとも遠いものとなります。
論理的に読むという行為は、自身の思考の力を磨く起点とも、基点ともなるのです。
本書は、論理的な読み方、書き方、言葉の扱い方を、目に見える形で示していきます。
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