是以 以是 而 漢文・古文を読めるように
「是以」「以是」の「読み」をすぐに知りたい方は、目次の 4.「是以 以是 『読み』答え」 をクリックしてください。
「而」の意味と読み方は、目次の8.2をクリック。
漢文・古文を読めるように
「乱れる」は、古語にはありません。
古語にあるのは、「乱る」です。
「れる」「られる」は、現代語の助動詞です。
「る」「らる」が、古語の助動詞です。
漢文・古文が扱うのは、古語です。古典文法です。
漢文が読めない、と悩む人は多いわけですが、漢文の読み方は、一通りではありません。
語と語の接続に誤りがなければ、何通りかに読めます。
このことに気づくだけでも、古典への視野は広がります。
今回の記事は、漢文・古文を読めるようにするためのものです。
「返り点はわかっているんだけど、そこから先の力がほしい」という人に!
ボリューム、あります。
濃い内容です。
どうぞ何度も何度もくり返し読んでください。
特に、次の記事も併せて、くり返し読んでください。
また、これらの記事と併せて、古文の現代語訳・品詞分解の記事も活用してください。カテゴリー「日本語 文法を基礎から読解、記述へ」「雑記帳」に、いくつも用意しています。 → サイトマップ
母語の文法は英文法にもつながる
母語の文法を知ると、英語力にも効果があらわれます。
言葉の扱い方が身につくからです。
英文法がわからないのは、そもそも母語の文法がわかっていないからです。
文法の概念そのものがないからなんです。
徒然草 第109段 「高名の木登り」から「易経繫辞」
今回の記事の起点となっているのは、徒然草第109段「高名の木登り」の一節です。
徒然草 第109段の原文と現代語訳はこちら
徒然草 第109段から、漢文「易経繫辞(えききょうけいじ)」を導きます。
徒然草 第109段の中で、「高名の木登り」の言葉「過ちは、易き所になりて、必ず仕る事」を、吉田兼好は「聖人の誡めにかなへり」と記していますが、この「聖人の誡め」とは「易経繫辞(えききょうけいじ)」の一節とされています。
通じているのは、「油断大敵」「油断は禁物」といった意です。
この「油断大敵」「油断は禁物」、覚えておいてください。読解で使います。
(接続語の「是以」「而」は、「易経繫辞」の一節の中で使われています。「是以」「而」の用法は、「易経繫辞」の解説のところで。)
是以 以是 「読み」問題
「是以」「以是」を、まずは読んでみましょう。
① 是以
② 以是
答えは、このすぐ下です。
ここ ここ ↓
是以 以是 「読み」答え
① 是以 → ここをもって
② 以是 → これをもって
※「是」は、「如是」の「読み」もありますから注意!
「是クノ如シ」→「是クノごとシ」(かくのごとし)。意味は、「そのとおりです」。
「如し」(助動詞)が活用すれば、「是クノ如ク」「是クノ如キ」です。
それでは、徒然草 第109段「高名の木登り」の一節「聖人の誡めにかなへり」から入っていきましょう。
徒然草第109段「高名の木登り」の一節「聖人の誡めにかなへり」
徒然草 第109段
原文
「聖人の誡めにかなへり」
(せいじんのいましめにかなへり)
現代語訳
聖人の戒めにあてはまる
「聖人の誡めにかなへり」の「かなふ」を漢字で書けば「適ふ」です。
古語にしても現代語にしても、ひらがなで書かれている言葉の場合、漢字にすると、意味が捉えやすくなります。(辞書はいつも手元に置きましょうね。→ 辞書の使い方 意味の理解 漢字の成り立ちと用法 六書 漢字による思考をわかりやすく解説 )
「適ふ」は、「適合する」「ぴったり合う」といった意です。
易経繫辞(えききょうけいじ)
徒然草 第109段の「聖人の誡め」の「誡め」は、「易経繫辞(えききょうけいじ)」の「君子安而不忘危、存而不忘亡、治而不忘乱、是以身安而国家可保」をいっているとされています。
「易経繫辞(えききょうけいじ)」とは、「易経」の説明書きです。「易」の卦(け)、爻(こう)の下に掲げた説明の辞です。
※スマホを横向きにしてご覧ください
君子安而不忘危、存而不忘亡、治而不忘乱、是以身安而国家可保
↓
君子安くして危ふきを忘れず、存じて亡を忘れず、治に乱を忘れず、是を以て身安くして国家保つべし。
くんしやすくしてあやふきをわすれず、ぞんじてぼうをわすれず、ちにらんをわすれず、ここをもってみやすくしてこっかたもつべし。
(君子安くして危ふきを忘れず、存じて亡を忘れず、治まりて乱るるを忘れず、是を以て身安くして国家保つべし。)
(━━━━ おさまりてみだるるをわすれず ━━━━。)
↓
現代語訳
君子は安らかにして危険を忘れず、生き存(ながら)えて死を忘れず、世の治に乱を忘れず、それゆえ身安らかにして国家を保つのがよい。
※このあと、意訳します。
「是以」 それゆえ・こういうわけで
「是以」は、それゆえ・こういうわけで、といった意です。
「前の『説明内容』を指し示し、まとめる」という働きをします。
※スマホを横向きにしてご覧ください
是以
説明内容 ← まとめる
━━━━、是以 ━━。
是ヲ以テ
ここヲもっテ
━━━━、 ←前の内容を指し示し、後にまとめる→ ━━━━。
君子は安らかにして危険を忘れず、生き存(ながら)えて死を忘れず、世の治に乱を忘れず
|| 是以
身安らかにして国家を保つ
「身安らかにして」が、ピンときませんかね。
「説明内容」から導けばいいんです。「説明内容」と「まとめ」は、同じ意味ですから。
「君子は安らかにして危険を忘れず、生き存(ながら)えて死を忘れず、世の治に乱を忘れず」という内容を、「まとめたもの」が「身安らかにして国家を保つ」です。
つまり、「身安らかにして国家を保つ」とは、
↓
「身安らかに『いつも注意を怠らないで』国家を保つ」という意。
↓
「身安らかに『油断することなく』国家を保つ」という意。
「身」の意味
「身」の意味 → からだ・身体・自身・自分・私自身・身分・分際・地位・立場・まごころ・全力・生き方・肉・刃など。
「身」とは、「身体」であり、それは「心」であり、「生き方」であり、「全力」です。
「身」は「心」と表裏です。
健康とは、心身の健康ですよね。
「身体」の健康が「心」の健康を支え、「心」の健康が「身体」の健康を支えます。
それにより、「まごころ」をもって「全力」で生きることができます。
やがて、それが「生き方」になります。
「身安らか」
「身安らか」とは、「全力」であり、「生き方」です。
「身安らか」=「全力」「生き方」の説明として、「君子は安らかにして危険を忘れず、生き存(ながら)えて死を忘れず、世の治に乱を忘れず」はあります。
「身安らかに」は、「いつも注意を怠ることのない生き方」であり、「懈怠(けたい)のない生き方」です。
※「懈怠」の対極にあるのが、「精進(しょうじん)」です。
「可」の意味
「可」の意味
①「できる」という可能の意味。
②「してもよい」「するのがよい」という許可・当然の意味。
③いけない、よくないの不可ではなく、「よい」「まあよい」という、優・良・可の「可」の意味。
今回の「可」は、②の許可・当然の「可」の意です。「~するのがよい」の意味です。
意訳
※スマホを横向きにしてご覧ください
「君子安而不忘危、存而不忘亡、治而不忘乱、是以身安而国家可保」
↓
君子安くして危ふきを忘れず、存じて亡を忘れず、治に乱を忘れず、是を以て身安くして国家保つべし。
君子安くして危ふきを忘れず、存じて亡を忘れず、治まりて乱るるを忘れず、是を以て身安くして国家保つべし。
↓
君子は安らかにして危険を忘れず、生き存(ながら)えて死を忘れず、世の治に乱を忘れず、それゆえ身安らかにして国家を保つのがよい。
↓
意訳
君子は無事でいるときでも危険の起きるときの準備を怠らない、日常を生きているときでも死が訪れるときの準備を怠らない、太平の世のときでも乱世となるときの準備を怠らない、こういうわけで、いつも注意を怠ることなく(油断することなく・油断大敵で・懈怠なく・全力で・精進して)国家を維持していくのがよい。
※「君子」とは、人格の立派な人、徳が高くて品位のそなわった人、人格者です。
治に居て乱を忘れず
「治に居て乱を忘れず」、ご存知でしょうか。
「易経繫辞」の、この「君子安而不忘危、存而不忘亡、治而不忘乱、是以身安而国家可保」からの言葉です。
「治に居て乱を忘れず」とは、太平の世にあっても、乱世となった場合の準備を忘れない、いつでも万一のときの用意を怠らない、といった意です。
徒然草第109段「高名の木登り」
で、徒然草第109段「高名の木登り」です。
「過ちは易き所になりて、必ず仕る事」
「高名の木登り」がいう言葉を、吉田兼好は「易経繫辞」の一節と重ねた(とされている)わけです。
そうして、「聖人の誡めにかなへり」と記します。
「油断大敵」「油断は禁物」「油断は怪我の基(もと)」である。
「是以」と「以是」の解説
「是以」「以是」は、接続の語です。前に(上に)記されている説明内容を指し示し、後で(下で)まとめていく形をとります。
※スマホを横向きにしてご覧ください
「是以」は、上から下に(前から後に)「ここヲもっテ」と読みます。
「以是」は、下から上に(後から前に)返って「これヲもっテ」と読みます。
注意してください
「是以」→「ここヲもっテ」の「是」の読みは、「ここ」です。
「以是」→「これヲもっテ」の「是」の読みは、「これ」です。
「是以」→ ここヲもっテ → 「是(ここ)」は、前に述べられている抽象的(観念的)な内容を指し示します。
「以是」→ これヲもっテ → 「是(これ)」は、前に述べられている具体的な内容(事物など)を指し示します。
※スマホを横向きにしてご覧ください
「是」で指し示し、「以」でつないでいく
「君子安而不忘危、存而不忘亡、治而不忘乱、是以身安而国家可保」
この一節を例にすれば、「是」の指し示している内容は、「君子安而不忘危、存而不忘亡、治而不忘乱」です。
「是以」は、「是」で指し示し、「以」でつないでいるんです。
抽象的【観念的】な内容を指し示し、それを下でまとめていくことになるので、奥の深い内容になっていくんですね。
漢文の奥の深さは、漢字一字一字の奥の深さであり、書き手の思考の深さです。
置き字「而」 読むか読まないか
「而」は、置き字です。
置き字ですから、訓読せず、送り仮名を付けなくてもOKです。
※訓読で、漢字の右下に付すカタカナが「送り仮名」です。再読の際は、左に付します。
※スマホを横向きにしてご覧ください
先ほど、「治而不忘乱」を、2通りの読み方で示しましたよね。
一つの読み方は、「而」を訓読しない読み方です。
→ 「治に乱を忘れず」
→ 「而」を訓読しなかったのは、「治」を名詞として読んだからです。意味が壊れなければ、このような読み方をしてもOKです。
→ 「治」と「乱」の関係から、「治」は「ニ」を付して読みます。
漢字と漢字の関係性、意味の関係性から、「ハ」「ニ」「ヲ」「テ」を付します。日本語にするわけです。
主語、目的語、補語、といった漢字の関係性を示すんです。
→ 「治」ニ「乱」ヲ忘レズ
もう一つの読み方は、「而」を訓読する読み方です。
→ 「治」を動詞として読めば「治まりて乱るるを忘れず」となります。この場合、「而」を「テ」と訓読し、送り仮名「テ」を付します。もちろん、この読み方でもOKです。
原文の意味が壊れなければ、上記のどちらの読み方でも良いのです。
多くの人が、これで混乱するんですよね。前に見た本では、違う読み方をしていたとか、句点が読点になっていたとか、主語の「ハ」があったとか、なかった」とか。
原文の意味が壊れなければ良いのです。
意味が壊れないというのは、原形が壊れないということで、書き方が壊れないということです。
活用のあるものは、活用の種類と活用形が壊れないということです。
だから、でたらめな読み方は、原形(書き方)を壊す読み方で、根本(こんぽん)の意味を壊す読み方になってしまうんです。これは、現代文も、古文も、英語も同じことです。
古語と現代語は違う 活用にも注意
漢文・古文で扱うのは古語です、文法は古典文法に従います。
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「治而不忘乱」 古語・動詞の活用に注意
「治而」
「治」
→ 「治める」は現代語です。古文・漢文においては通用しません。
→ 古語は、「治まる」
→ 「治まる」を「而(て)」に接続させるには、連用形にします。
→ 「治まる」は、ラ行四段活用動詞です → ら・り・る・る・れ・れ → 治まら・治まり・治まる・治まる・治まれ・治まれ
→ 「治まる」の連用形は、「治まり」
→ 「治まりて」
※「乱」の接続は、やや難し目です。でも、何度も何度もくり返し読めば、間違いなく、力がつきますよ。
「乱」
「乱る」
→ 「乱れる」は現代語です。古文・漢文においては通用しません。
→ 古語は、「乱る」
→ 「不忘乱」
→ 「忘れず」と「乱る」との関係性を確認します。
→ ~ヲ忘れず
→ 「乱る」には、「ヲ」を送り仮名として、「忘れず」に接続させます。(注意してください! このままの形で接続できませんよ。活用形に注意!)
→ この「ヲ」は格助詞です。
→ 格助詞は、体言・連体形と接続します。
→ 「乱る」を連体形にします。
→ ここの「乱る」は自動詞の「乱る」です。 → ラ行下二段活用 → れ・れ・る・るる・るれ・れよ → 乱れ・乱れ・乱る・乱るる・乱るれ・乱れよ
(※他動詞の「乱る」は、四段活用です → ら・り・る・る・れ・れ)
(ここでは、「世が乱る」というように「が」だから、「自動詞」。「世が人心を乱る」のように「を」なら、「他動詞」。)
→ 「乱る」の連体形 → 「乱るる」
→ 「乱るる」ヲ
→ 「乱るる」ヲ「忘れず」
「治而不忘乱」
→「治まりて乱るるを忘れず」
「而」 順接と逆接の意味
「而」は、訓読しても、しなくても、順接・逆接の意は表します。
順接の際は、順接の助詞「て」を送り仮名としてつけます。
逆接の際は、逆接の助詞「ど」「ども」「も」を送り仮名としてつけます。
順接か、逆接かは、文章の内容からの判断になります。
而 テ・(シ)テ ・(ニシ)テ 読み方のコツ
意味は、基本的に、上から下に(前から後に)流れていきます。この上から下への意味の流れが「見える」ようになれば、漢文は読めます。
「而」の順接の基本は、「テ」です。上から下に(前から後に)内容をつなぎます。
この基本が接続する語によって変化します。
「日本語読み」をするための変化です。
※スマホを横向きにしてご覧ください
~而
○ 動詞の連用形 +「而」 → ~テ
○ 形容詞・形容動詞の連用形 +「而」 → ~シテ
「して」= サ変動詞「す」の連用形の「し」+(接続助詞)「て」 → して
「シテ」で一語化しています。
この「シテ」は、接続助詞にも、格助詞にもなります。
○ 名詞 +「而」 → ~ニシテ
「にして」= 格助詞「に」 + 格助詞「して」
(この格助詞「して」は、サ変動詞「す」の連用形の「し」+(接続助詞)「て」の「して」が一語化して、格助詞となったものです。)
「にして」= 格助詞「に」 + サ変動詞「す」の連用形の「し」+(接続助詞)「て」 → して
「にして」= 断定の助動詞「なり」の連用形「に」+「して」 → にして
「ニシテ」で一語化しています。
だから、「安而」は、以下のいずれの読み方でもOKです。
「安くして」
「安し」(形容詞) → 連用形「安く」 + 而 → 安く + し + て → 安くして
「安らかにして」
「安らかなり」(形容動詞) → 連用形「安らかに」+ 而 → 安らかに + し + て → 安らかにして
「安にして」
→ 「安」(名詞) → 「安」+「而」 → 安 + に + し + て → 安にして
「存而不忘亡」
→ 「存じて亡を忘れず」
動詞「存ず(ぞんず)」→ 連用形「存じ」+ 而 → 存じて
読み方のコツともいえるのは、意味の成り立ちの理解です。
それは、書き方であり、一語の存在です。
どうぞくり返し読んでください。
「見える」ようになる日が必ずきます。
君子安而不忘危、存而不忘亡、治而不忘乱、是以身安而国家可保
「君子安而不忘危、存而不忘亡、治而不忘乱、是以身安而国家可保」
君子安くして危ふきを忘れず、存じて亡を忘れず、治に乱を忘れず、是を以て身安くして国家保つべし。
君子は安らかにして危険を忘れず、生き存(ながら)えて死を忘れず、世の治に乱を忘れず、それゆえ身安らかにして国家を保つのがよい。
君子は無事でいるときでも危険の起きるときの準備を怠らない、日常を生きているときでも死が訪れるときの準備を怠らない、太平の世のときでも乱世となるときの準備を怠らない、こういうわけで、いつも注意を怠ることなく(油断することなく・油断大敵で・懈怠なく・全力で・精進して)国家を維持していくのがよい。