直喩、隠喩、例文とともに 読解と記述をわかりやすく
「喩え」の表現は、強調の効果があります。
だから、
読解の際には、何を強調しているのかを読み取る。
記述の際には、何を強調するのか、意図を持つ。
それが、大切です。
今回は、代表的な「喩え」の表現技法である、直喩(ちょくゆ)と隠喩(いんゆ)を説明します。
なお、直喩は明喩(めいゆ)ともいい、隠喩は暗喩(あんゆ)ともいいます。
直喩(ちょくゆ)
「まるで」、「あたかも」、「さながら」、「ような」、「ごとく」、「みたいな」等等、そのいずれかの言葉を使っての喩えを、直喩といいます。
例
〇 彼は、鬼のようだった。
〇 そこは、さながらパラダイスだった。
〇 まるで、彼女は、マーメイドみたいだった。
隠喩(いんゆ)
「まるで」、「あたかも」、「さながら」、「ような」、「ごとく」、「みたいな」等等の言葉を使わずに喩えるのが、隠喩です。
例
〇 彼は鬼だった。
〇 そこはパラダイスだった。
〇 彼女はマーメイドだった。
何を強調しているのか
喩えの表現技法で注意すべきは、強調しているものは何か、ということです。
さらにいえば、何をいいたのか、何を訴えたいのか、ということです。
自身で「書く」際にも、それを理解していなければ、前後と意味のつながらない、妙な文章となってしまいます。
上記の例文で、「書き手」は、何を強調したいのでしょう。
何をいいたいのでしょう。
内容の確認
例文は、何を強調していたのか。
「書き手」は、何をいいたいのか。
例文の内容を確認してみましょう。
上記の直喩と隠喩は、同じ内容の文です。
だから、強調している内容は同じになります。
まず、強調している文字を確認し、次に、「書き手」がいいたいことを示します。
例
〇 彼は、鬼のようだった。 = 彼は鬼だった。
強調している文字 → 「彼」
いいたいこと
→ 「彼は、鬼のように」何なのか。
→ 「鬼」の意味を、自分の言葉で表すことが重要です。その際、「ような」、「みたいな」といった言葉を使ってはいけません。「鬼」そのものの意味をだすんです。
→ 「鬼」 = 恐ろしい、怖い。
→ 彼が恐ろしかったということ。
彼が怖かったということ。
例
〇 そこは、さながらパラダイスだった。 = そこはパラダイスだった。
強調している文字 → 「そこ」
いいたいこと
→ 「パラダイス」の意味をだします。
→ 「パラダイス」 = 悩みや苦しみのない楽しい所。
→ そこはすばらしい所。
そこは楽しい所。
〇 まるで、彼女は、マーメイドみたいだった。 = 彼女はマーメイドだった。
強調している文字 → 「彼女」
いいたいこと
→ 「マーメイド」の意味をだします。
→ 「マーメイド」 = 人魚 = 美しい、泳ぎが上手。生魚を好む?
→ 彼女は美しいということ。
彼女は泳ぎが上手であるということ。
いつでも、主語の確認は重要
上記の例文でもわかるように、どのような書き方をしていても、主語になる言葉は、キーとなります。
いつでも、主語の確認は重要なんです。
意味を生みだす主体となるものですからね。
内容の理解
どのような表現技法においても、何を強調しているのかを理解することが大切です。
直喩も、隠喩も、AをBに喩(たと)えるのなら、Aが強調されます。
AはBのようだ。
上記の例文は、次のような直喩や隠喩にもなります。
例
〇 鬼のような彼だった。 = 鬼の彼だった。
〇 さながら、パラダイスのような地だった。 = パラダイスの地だった。
〇 マーメイドみたいな彼女だった。 = マーメイドの彼女だった。
ここであげた例は、すべて一文でしたが、文章中での、直喩、隠喩は、その前後の文との関わりから、強調の意味が決定されます。
文章の意味の流れに注意しましょう。
直喩の扱いの難しさ
直喩は、わかりやすい書き方という言い方もできますし、幼稚な書き方という言い方もできます。
それは、扱いが難しい、ということでもあります。
使い古された直喩は、感動を生みませんしね。
しかしながら、適切な箇所で、うまい直喩が書ければ、感動は大きいんです。扱いが難しいという所以(ゆえん)です。
「~ようだ」の解説はこちら → 助動詞 ようだ 識別 例文で意味と用法から読解、記述まで
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メタファー
隠喩は、多くの書き手が目指す書き方です。
あからさまに書くことは、恥ずかしいですからね。
できるだけ書かずに、 意味を深く込めるのが、力のある書き手です。
それを読み取るのは、読み手の務めです。
また、隠喩は「メタファー」ともいいます。
この言葉も、最近では、ずいぶん多くの人に馴染んでいるようです。
おそらくは、村上春樹さんの人気によるものですね。
(拙著『大人の「読む力」』では、村上春樹さんの『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の解説もしています。【内容紹介 大人の「読む力」(日本実業出版社))