六書 わかりやすく 漢字による思考を解説 成り立ちと用法
「りくしょ」は漢音
漢字の成り立ちは、六種類です。
これを六書(りくしょ)といいます。
「りくしょ」です。「ろくしょ」ではありません。
漢字の音には、漢音、呉音、唐音、宋音、とあって、「六」を「りく」と発音するのは、漢音からです。
「十」の音は、「じっ」、「じゅう」、「しゅう」です。
十中八九は「じっちゅうはっく」で、十把一絡げは「じっぱひとからげ」です。
漢字の成り立ちと用法は、六種類
① 象形(しょうけい)
② 指事(しじ)
③ 会意(かいい)
④ 形成(けいせい)
⑤ 転注(てんちゅう)
⑥ 仮借(かしゃ)
① 象形(文字)
例 山、川、日、月、象、鳥、木、等等
象形文字は、物の形を象(かたど)って字形としたものです。
漢字を構成する基本の要素として、部首になるものが多い文字です。
② 指事(文字)
例 一、二、三、上、中、下、本、等等
事柄、数等、抽象的なものを記号化し、字形としたものです。
形に象(かたど)りにくいものを、点や線を使って文字にしたわけです。
③ 会意(文字)
例 林、森、男、早、信、鳴、休、等等
二字以上の漢字を結合し、その意味を表した字形です。
結合は、象形文字の結合であったり、指示文字の結合であったりします。象形文字、指事文字があったから、会意文字ができたわけです。漢字の歴史的な流れを感じますね。
④ 形声(文字)
例 銅、釧、雲、清、晴、結、験、等等
漢字と漢字を結合し、一方を意味、他方を音(おん)とした字形です。
漢字と漢字の結合ですから、会意文字と重なるところがあります。
また、形声文字は、象声文字ともいいます。「象」は「形」の意ですからね。
私たちが使用する漢字のほとんどは、形声文字です。
形声文字は、基本的に、部首が意味を表しますが、音の部位も意味と関連することが多く、これにより、見たことのないような漢字でも、その意味を推測することができます。
(この実例を、「釧」という文字を使って、下に記します。)
以下の二つを合わせて、「六書」というわけですが、「転注」と「仮借」については、漢字の成り立ちというより、「漢字の用法」と考えたほうがよいものです。
⑤ 転注(文字)
例
「楽」、楽(ガク)を、転じて、楽(ラク)、「たのしい」という意にする、
「悪」、悪(アク)を、転じて、悪(ヲ【オ】)、「にくむ」という意にする、等等。
「楽の意味とは?」、「悪の意味とは?」、と問われた場合、「音楽は、楽しいもの」、「悪は、憎むもの、憎悪(ゾウオ)するもの」というように、転注文字は、意味の転用によって、自身の説明が可能となる文字です。
「転注」の際、多くは、字音が変化します。
⑥ 仮借(文字)
例 亜米利加(アメリカ)、仏蘭西(フランス)、伊太利亜(イタリア)、等等
語に「音(オン)」はあるけれど、当てるべき漢字がないといった場合に、本来の意味とは違う同音の他の漢字を借りて、当てたものです。
報道などで、「米国」、「仏国」などと言われたり、記されたりしますよね。
あの、「米」、「仏」は、上記の「仮借」からのものです。
形声文字「釧」
「釧」は、形成文字です。
部首は「かねへん」です。つくりは「川」です。
「釧」は、「くしろ」と読みます。音は「セン」です。
「くしろ」とは、腕輪です。
「金」は金属の意で、大切なものの意ですから、「釧」は、大切な(金属製の)腕輪の意になります。
つくりの部位の「川」は、「音」で「セン」ですが、このつくりの「川」から、その意味も読み取れます。
「川」は、その「姿形」を表します。
つまり、腕輪「釧(くしろ)」の「姿形」、その「模様」が「川」なのです。
「くしろ」 装身具は貴重で、大切なもの
古代、男も女も、腕輪を付ける風習がありました。
その装身具の名が、「くしろ」です。
装身具は、今も昔も貴重なもので、大切なものですね。
プレゼントにもされ、お守りにもされます。
古代でも、貴重で大切なものだったから、死者と共に埋葬されもしたわけです。
「釧路でブラタモリ」
ここで、僕が「釧」の文字を、形声文字の例にとりあげたのには訳があります。
じつは、先日、「ブラタモリ」で「釧路」の回を見て、一人、秘かに、なるほどなあ、と思ったからなんです。
「釧路川と釧路湿原」
念のために記しておきますが、「ブラタモリ」は、漢字を説明する番組ではありません。
日本各地、いえ、世界各地の、地形や地質を、楽しく紹介する番組です。
「釧路でブラタモリ」の回は、釧路川と、その下流部に広がる日本最大の釧路湿原がメインの内容でした。
僕が、一人、秘かに、なるほどなあ、と思ったのは、ガイド役のかたのお話からです。(まあ、毎回、なるほどなあ、と思うんですけどね。「ブラタモリ」は、本当に、面白くて、ためになる番組です。)
ガイド役のかたの話を、かいつまんで言えばこうです、「釧路という街は、釧路川を使って、物を輸送していた。釧路は、釧路川のお蔭で栄えた街である」。
番組で、漢字の話は、ひとつも出てきませんでしたが、僕は、「釧路川」というその文字と、ガイド役のかたのお話を結びつけて、ああ、なるほどなあ、と一人、秘かに思ったのです。
「釧路川」という漢字から考えられる
地名の由来は様様で、そこの地形や地質から名付けられることもあれば、そこに住む人間の感覚から名付けられることもあります。
地名のつけられ方は、じつに多様です。
北海道の場合は、アイヌ語を由来とすることが多いようです。
「釧路」もその例にもれず、アイヌ語で腕輪を表す「クスリ」からとか、通る路を表す「クシュル」からとか。
川は、昔も今も大切なものです。
崇(あが)めるものです。
古代、人は、その大切な、崇める川を、腕輪、「クスリ」、「くしろ」に込めたのでしょう。
あるいは、その腕輪、「クスリ」、「くしろ」の模様に、川の姿形を見たのでしょう。
腕輪も、崇めるもので、大切なものですからね。
そうして、その「クスリ」、「くしろ」に、「釧」という漢字があてられた。
ちなみに、「路」とは、神がおりるところ、神のおりたつみちの意を持った文字です。
川は、「路」になります。
それは、神の「川」となります。
「釧路川」とは、そういう(文字から成る)「川」なんです。
人人に崇められていた「川」であることがわかります。
「釧路という街は、釧路川を使って、物を輸送していた。釧路は、釧路川のお蔭で栄えた街である」
ガイド役はそう言いました。
「釧路川」は、現実に、人人の生活をずっと支えてきたわけです。
まさに、「釧」、「釧路」の「川」は、人人にとって、「大切な川」であり、「崇める川」で、「神のおりたった川」、「神がおりたつ、そのみちとしての川」といえるでしょう。
と、まあ、僕は、「ブラタモリ」を見ながら、一人、秘かに、「釧路川」という漢字一字一字について思いをめぐらせていたわけです。
(で、誰かに話すものでもないので、六書の解説として、ここに記しました。)
漢字の成り立ちとその用法、どうぞ、幅広く、ご活用ください。
釧路、北海道、とてもいいところですよね。