高村光太郎 「あどけない話」(智恵子抄)を読む その2
「あどけない話」(智恵子抄)を読む「その1」からの続き
「高村光太郎 『あどけない話』(智恵子抄より)を読む その1」に続いての内容となります。
「その1」で、演習と問題を記していますので、ぜひ、そこで、自分の答えを持ってから、こちらをお読みください。高村光太郎 「あどけない話」(智恵子抄)を読む その1
問 書き出しの一文で、最重要の意味は次のうちのどれでしょう。
① 智恵子の空
② ほんとの空
③ あどけない話
④ 智恵子のあどけなさ
⑤ 智恵子のいう空
どうでしょう。自信満満ですかね。
「その1」の解説や「日本語 文法を基礎から読解、記述へ」を読んで、その内容を受けとめてもらえていたら、大丈夫ですね。
論理的な思考の力
読解とは、目の前の文章の理解です。
読解問題とは、その確認です。
本来、客観的、論理的に考えられれば、読解問題は間違えないものです。
ただ、問題が、作成者の単なるセンスでつくられていては、本も子もありません。
解答者は、失点するばかりか、客観と論理を身につける機会も失ってしまいます。
問題作成者は、客観と論理を理解していなければなりません。
形のない、なんとなくのものは、学問ではありません。
問題作成には、大きな責任が伴います。
日本語でも、英語でも、日常会話やトラベル会話では、客観的で論理的な深い思考をすることはできません。
扱う言葉も、言葉の扱い方も違うからです。
読む力、書く力は、論理的な思考の力です。
それは、確かな力に、実力にできるもので、磨き続けることのできる力です。
「あどけない話」
智恵子は東京に空が無いといふ、
ほんとの空が見たいといふ。
問 書き出しの一文で、最重要の意味は次のうちのどれでしょう。
① 智恵子の空
② ほんとの空
③ あどけない話
④ 智恵子のあどけなさ
⑤ 智恵子のいう空
正解
⑤
「あどけない話」の一文の主語は、「智恵子は」です。
最重要の言葉は、この主語をつくっている「智恵子」です。
つまり、この「智恵子」という言葉を使わなければ、設問が求めている「最重要の意味」は表せない、ということです。
主体が意味を生みだす
主語になる言葉、主体が意味を生みだしていきます。
そうして、主語の意味は、述語で完成します。
「あどけない話」の一文の述語は、「いふ(いう)」です。
意味の完成に、述語は不可欠な言葉です。
この文章チェックの時点で、すでに正解の選択肢は見えますね。
「あどけない話」の一文の主語と述語の「文字」を記しているのは、選択肢⑤だけです。
客観と論理が、主観を磨く
主観に固執すれば、頑迷に陥ります。
客観的、論理的な思考は、生きていく力となります。
客観と論理は、主観を磨いていくんです。
重要な意味は、その書き方をする
ミクロ的に観察、分析して、本文と選択肢⑤の内容確認をしていきましょう。
述語は、「いふ(いう)」でした。
何と「いふ(いう)」のか。
「いふ(いう)」という動詞は、「いふ(いう)」内容を確認する必要があります。
「智恵子は」、「東京に空が無い」、「ほんとの空が見たい」と「いっ」ています。
Ⓐ「東京に空が無い」
Ⓑ「ほんとの空が見たい」
Ⓐ、Ⓑでくりかえされている言葉がありますね。
そう。「空」です。
「空が」というように、主語の書き方もされています。主語の書き方は、重要なキーとなる書き方です。
重要だから、くりかえすんです。
重要だから、主語の書き方をするんです。
いいかえましょう。
くりかえすから、重要な意味になるんです。
主語の書き方をするから、重要な意味になるんです。
瑕疵(かし)のない文章であれば、重要な意味は、どの方向から見ても、重要な意味となります。
読む力、書く力は、自分の頭で考えられる力
読む力があるというのは、書き方を知っているということで、客観的、論理的なものの見方、考え方を身につけているということです。
それは、自分の頭で考えられる、自分の頭で言葉を扱える、自分の言葉をつくれる、ということです。
読む力、書く力は、考える力で、生きている限り、磨き続けていくことができる力です。
それって、自己満足しなければ、死ぬまで成長できるってことなんですよね。
主語、述語、修飾語が意味を構成する
智恵子は東京に空が無いといふ、
ほんとの空が見たいといふ。
「⑤智恵子のいう空」
さらに、本文と選択肢⑤の内容確認をします。
選択肢⑤「智恵子のいう空」は、「東京に無い」「空」で、「智恵子」が「見たい、ほんとの」「空」です。
本文の「東京に空が無い」、「ほんとの空が見たい」という「智恵子」の言葉とも通じますね。
正解は⑤で、間違いありません。
ちなみに、別解をつくるとすれば、「智恵子のいうほんとの空」です。
「東京に」「無い」「空」=「ほんとの空」ですからね。
本文では、「東京に」「無い」「空」よりも、「ほんとの空」のほうが強い意味として記されています。
智恵子は東京に空が無いといふ、ほんとの空が見たいといふ。
↓
智恵子は「東京に空が無い、ほんとの空が見たい」という。
↓
智恵子は「Ⓐ、Ⓑ」という。
本文は、上記のように記されています。
Ⓐ内容では、キーである「空」が「無い」で打ち消され、Ⓑ内容では、キーの「空」が「見たい」で肯定されています。
「Ⓐでなく、Ⓑ」という書き方と同類です。
Ⓐの「東京に」「無い」「空」よりも、Ⓑの「ほんとの空」のほうが強い意味となっているんです。
別解は、「智恵子のいうほんとの空」となります。
「智恵子」が主語、「いう」が述語、修飾語が「(ほんとの)空」です。
主語、述語が、意味の根幹で、修飾語がその意味の補完をします。
意味は、一語一語によって表される
意味は、言葉によって表されます。
意味は、言葉でできています。
だから、ある意味・内容を表現するには、それに必要な言葉というものがあるんです。
その一語一語を使わなければ、「ある意味」というものは、表すことができないんです。
今回の演習問題の場合、「ある意味」にあたるのが、「書き出しの一文で、最重要の意味」です。
報告書にしても、記述解答にしても、瑕疵のある書き方をしておいて、「その意味は省略したんだ」などと言っても、通用はしません。
客観的、論理的とは、意味の連続性に破綻のない、形あるもので、そもそも、誰が読んでも通じるものです。
だから、読めるか、読めないか、書けるか、書けないか、という力の差は、仕事をするにおいても、日常においても、大きな力の差となってしまうんです。
目の前の一語一語
読解にしても、記述にしても、目の前の言葉から離れないようにしましょう。
自分の頭の中だけで考えようとすると、なんとなくの日本語になってしまいます。
まずは目の前の一語一語を大切に扱うこと。
観察眼を鍛えることです。
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