品詞分解 助動詞の接続 古文が訳せるようになる
品詞分解のやり方と訳し方
品詞分解できる力は、読解の根底の力です。
それは、一語を、一文を、文章を、形と意味で捉えられる力です。
品詞分解と助動詞の接続の理解は、原文の訳、つまりは読解に不可欠です。
この理解がないと、一語の存在に気づくことができません。
一語には、「意味」が存在しています。
それは、現代文も、英語も同じこと。
国語現代文とは違う文章との出会いは、個の根本の読解の力を磨きます。
今回、古文の品詞分解のやり方、助動詞の接続の理解から、文章の訳し方のコツまで記します。
ボリュームあります。
くり返し、ご活用ください。
何度も何度も読んでください。
いちいち考えずに、訳せるようになりますよ。
読解のスタンスが身につきます。
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目次・小見出しは、品詞分解、助動詞の接続、現代語訳の際に考えるべき語を示しています。
「源氏物語 『桐壺』」の一節の品詞分解と訳し方
品詞分解は、ミクロとマクロの視点が必要です。
それは、まったくもって、読解力そのものです。
語と語が、どのような形でつながっているのか、どのような意味と意味とでつながっているのかに注意しましょう。
「源氏物語 『桐壺』」の一節を使います。
例文
世の例(ためし)にもなりぬべき御もてなしなり。
「世の例に(もなりぬ)」品詞分解 「世」「の」「例」「に」
「世の例に」
・名詞は、見分けがつきますね。
(名詞は、下に「が」「は」を付けて、主語の形をつくれる語です。)
→「世」は「名詞」です。
→「例(ためし)」は「名詞」です。
・「の」
→「世の例」の「の」
→「世」+「の」+「例」
→「の」は、「世(名詞)」と「例(名詞)」をつないでいる
→「格助詞」
= さらにいえば、「連体修飾格の格助詞」
→ 何の「例」なのか →「世の」「例」→「世の」は、「例」という体言(名詞)を修飾している →「連体修飾格の格助詞」
・「に」
→「世の例にもなりぬ」の「に」
→「世の例」+「に」(も)+「なりぬ」
→「に」は、「世の例(名詞)」と「なりぬ」をつないでいる
→「格助詞」
= さらにいえば、「連用修飾格の格助詞」
=「世の例」+「に」+「なる」
→ どう「なる」のか →「世の例に」「なる」→ 「世の例に」は、「なる」という用言(動詞)を修飾している → 「連用修飾格の格助詞」
※「~に・なる」は連用修飾の形です。主語・述語の形ではありません。「に」は、主語(主格)にはなりません。連用修飾語(連用修飾格)の形です。
→体言(名詞・代名詞)と、他の語との関係性を示す → 格を示すのが「格助詞」
→格という形は、主格・目的格・修飾格などがあります。
たとえば
・体言(名詞・代名詞)を受け、主体(主語)の格を示す → 主格の格助詞
・体言を受け、体言に連なる(体言を修飾する) → 連体修飾の格を示す → 連体修飾格の格助詞
・体言を受け、用言(動詞・形容詞・形容動詞)に連なる(用言を修飾する) → 連用修飾の格を示す → 連用修飾格の格助詞
格助詞
「が」「の」「を」「に」「と」「へ」「より」「から」「にて」「して」
「世の例に」現代語訳
現代語訳
「世の例」
→ 前の世の例
→ 前例
→ 後世の人々の語り草 /(世の習わし・世間のしきたり)
「世の例に」
→ 後世(の人々)の語り草に
→ 後世の人々の語り草に
→ 後(のち)の世の人々の語り草に ・ 世間の話の種に
「世の例にも(なりぬ)」品詞分解 「も」
「世の例にも(なりぬ)」
・「も」は、「世の例に」を受け、「終止形」に係る
→「係助詞」(「世の例にもなりぬ」では「ぬ【終止形】」
・「係助詞」は、種々の語に付いて、基本的に意味を強めます。(係助詞の「や」「か」の、疑問、反語も、その意味を強めているんです。)
・強調の意の語は、それを省略しても基本の意味が変わりません。
→「世の例になり」=「世の例にもなり」
→「世の例になり」を強めた形が、「世の例にもなり」
「世の例にも」 現代語訳
現代語訳
「世の例にも」
→ 後の世の人々の語り草にも ・ 世間の話の種にも
「世の例にもなり」品詞分解 「なり」
「世の例にもなり」
「世の例にも」の意味を受ける語が
・「どうするのか・どうなるのか(という動きの意味)」なら →「動詞」
(「動詞」= 言い切り「ウ段」・ラ行変格活用は「り」)
・「どんななのか(という状態・性質・心情の意味)」なら →「形容詞」か、「形容動詞」
(「形容詞」=言い切り「~し」・「形容動詞」=言い切り「~なり」「~たり」)
「世の例にもなり(ぬ)」
→「世の例にも」を受けているのは
→「なり(ぬ)」という動作
→「なり」は「動詞」(「なりぬ」の「ぬ」は助動詞)
※「形容動詞」の「~なり」とは、「静かなり」「あはれなり」などです。「形容動詞」は、性質・状態の意味を表します。
動詞「なり」 活用の種類
動詞「なり」の活用の種類を確認します。
→「なり」の末尾は「り」だから
→「ラ行」
→「なら・なり・なる・なる・なれ・なれ」と活用
→「ラ・リ・ル・ル・レ・レ」と活用
→「ラ・リ・ル・レ」とラ行の四段で活用
→「なり」は、「ラ行四段活用動詞」
※古文の動詞の活用の種類は、「四段活用」「上二段活用」「下二段活用」「上一段活用」「下一段活用」「カ行変格活用」「サ行変格活用」「ナ行変格活用」「ラ行変格活用」の9種類です。
動詞「なり」の活用形
ラ行四段活用動詞「なり」の活用形を確認します。
「なり」は、「ラ行四段活用」です。
「なら・なり・なる・なる・なれ・なれ」と活用します。
未然形 → なら
連用形 → なり
終止形 → なる
連体形 → なる
已然形 → なれ
命令形 → なれ
「世の例にもなり」の「なり」は、「連用形」です。
「世の例にもなりぬ(べき)」品詞分解 「ぬ」
「世の例にもなりぬ」
「ぬ」は、「なり」という動詞の連用形に接続しています。
→「完了」の「助動詞」ということです。
活用語の連用形に接続する助動詞は、7つです。
→ き・けり・つ・ぬ・たり・けむ・たし
このまま、覚えてしまいましょう。
「連用形・き・けり・つ・ぬ・たり・けむ・たし」と指折り数えながら、本気で20回も声に出せば覚えられるはず。
「連用形接続は、7つ! き・きり・つ・ぬ・たり・けむ・たし」
※覚えるときは、必ず「数」をおさえましょう。
連用形接続の助動詞は7つです。
「ぬ」の活用形
「完了」の助動詞「ぬ」の活用形を確認します。
「世の例にもなりぬ」
係助詞「も」の係り受けがありますから、「世の例にもなりぬ」で意味は結ばれます。
・係助詞「も」の結びは、基本的に終止形です。
・意味が結ばれる、意味が完成する、意味が終わるとは、基本的に終止形で文が終わるということです。
→「世の例にもなりぬ」の「ぬ」は終止形。
※「係り結び」
→「ぞ」「なむ」「や」「か」は「連体形結び」
→「こそ」は「已然形結び」
・終止形ではなく、特殊な結び方をするから、わざわざ「係り結び」というわけです。
「結ぶ」とは、意味が終わる・終える、完成する、ということです。
「世の例にもなりぬべき」「べき」からの「ぬ」
「世の例にもなりぬべき」
「ぬ」に接続している「べき」から見ても、「ぬ」は終止形と確認できます。
→「べき」は、終止形の活用語に接続する助動詞だからです。
「世の例にもなりぬ」の「ぬ」は、「完了」の助動詞「ぬ」の終止形です。
→完了の助動詞「ぬ」を覚えましょう。
「ぬ」の識別
「ぬ」の識別は2種類
○「来ぬ人」の「ぬ」は、打消しの助動詞「ず」の連体形 → 来ない人
○「夏来ぬ」の「ぬ」は、完了の助動詞「ぬ」の「終止形」 → 夏が来た
「世の例にもなりぬ」 現代語訳
現代語訳
「世の例にもなりぬ」
→ 後の世の人々の語り草にもなった ・ 世間の話の種にもなった
「世の例にもなりぬ」で、意味は結ばれます。「ぬ」は終止形ですしね。
しかし、注意してください。
これは、一旦、結ばれるということです。
なぜなら、「世の例にもなりぬべき」と「ぬ」の後に、さらに語が続いているからです。
文章中の意味は、ミクロに一つにまとまりながら、さらに大きな一つのマクロのまとまりの中に組み込まれていきます。
「世の例にもなりぬべき御もてなし」品詞分解 「べき」「御もてなし」
「世の例にもなりぬべき御もてなし」
「ぬ」に、「べき」が接続しています。
→「ぬ」は終止形でしたね。
→「べき」は、「推量の助動詞・べし」ということです。
・活用語の終止形に接続する「べき」は、「推量の助動詞・べし」です。
活用語の終止形に接続する助動詞は、6つ
→ べし・らし・らむ・まじ・めり・なり
このまま覚えてしまいましょう。
「終止形接続は、6つ! べし・らし・らむ・まじ・めり・なり」
「世の例にもなりぬべき」「ぬべき」は強意の推量「ぬべし」
「世の例にもなりぬべき」
→「ぬべき」
→「ぬ」+「べき」
→「完了」+「推量」
→「強意の推量」の意となります。
→「きっと~だろう」「~に違いない」などと訳します。
※強意の推量の形
「ぬ」+「推量の助動詞」、「つ」+「推量の助動詞」は、強意の推量の意となります。
→「ぬべし」「つべし」「にむ」「てむ」「ぬらむ」「つらむ」「なまし」「てまし」「にけむ」「てけむ」
「べき」の活用形
推量の助動詞「べき」の活用形を確認します。
「べき」の下(後)の語(言葉)に注目しましょう。
「世の例にもなりぬべき御もてなし」
「べき」の下(後)には、「御もてなし」という語(言葉)があります。
→「御もてなし」は、名詞・体言です。
→「べき」は、「連体形」ということです。
・この「べき」は、「世の例にもなりぬべき」という一まとまりの意味を、「御もてなし」という名詞(体言)に掛けています。
→「世の例にもなりぬべき」が、「御もてなし」を修飾しているのです。
→修飾・被修飾の関係です。
→どのような「御もてなし」なのか、というと、「世の例にもなりぬべき」「御もてなし」ということです。
→「世の例にもなりぬべき」の「べき」は、「推量の助動詞『べし』の連体形」
→ 推量の助動詞「べし」を覚えましょう。
助動詞「べし」の意味
助動詞「べし」には、推量の他にも・意志・可能・当然・義務・命令・適当・勧誘の意味があります。
前後の意味のつながりから訳すのが基本です。
「御もてなし」
「御もてなし」
「御」+「もてなし」
「もてなし」に尊敬の意の接頭語「御」が付いています。
「もてなし」
→ 処遇・取り扱い / 振る舞い・態度 / 取り計らい・処理 / もてなし・ごちそう
「御もてなし」
→ ご寵愛(ちょうあい)・ご処遇
「世の例にもなりぬべき御もてなし」 現代語訳
現代語訳
「世の例にもなりぬべき・御もてなし」
御もてなし → 御取り扱い・ご処遇・ご寵愛
「世の例にもなりぬべき・御もてなし」
「ぬべき」ですから、強意の推量の意で訳します。
→ 後の世の人々の語り草にもきっとなりそうな・ご寵愛(ちょうあい)
/ 世間の話の種にもきっとなるに違いないような・ご処遇
「世の例にもなりぬべき御もてなしなり」品詞分解 「なり」
「世の例にもなりぬべき御もてなしなり。」
「御もてなし」は、名詞です、体言です。
→ 「なり」は「体言・連体形接続の助動詞」ということです。
→「断定の助動詞・なり」
体言・連体形に接続する助動詞は、3つ
→ なり・たり・ごとし
このまま覚えてしまいましょう。
「体言・連体形接続は、3つ! なり・たり・ごとし」
「なり」の活用形
断定の助動詞「なり」の活用形を確認します。
「世の例にもなりぬべき御もてなしなり。」というように、「なり」の下(後)には句点(。)があります。
→ (文の)意味を結んでいる、終えている、ということです。
→「世の例にもなりぬべき御もてなしなり」の「なり」は、「終止形」です。(係り結びもありませんね。)
→「なり」は、断定の助動詞・終止形
「なり」の識別
「なり」の識別は3種類
○「体言・連体形」+「なり」 → 断定の助動詞「なり」
例「都にも来ぬ人なり」
→「人」は体言
→「都にも来ぬ人なり」の「なり」は、断定の助動詞 → 都にも来ない人である
○「終止形」+「なり」 → 伝聞推定の助動詞「なり」
例「夏来ぬなり」
→「ぬ」は完了の助動詞「ぬ」の終止形
→「ぬ」=「な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね」
→「夏来ぬなり」の「なり」は、伝聞推定の助動詞
→ 夏が来たようだ
○「(性質・状態の意味)なり」 → 形容動詞
例「静かなり」
→「状態の意味+なり」
→「静かなり」の「なり」は、形容動詞の一部
→ 静かだ
「世の例にもなりぬべき御もてなしなり」 現代語訳
現代語訳
「世の例にもなりぬべき御もてなしなり。」
「世の例にもなりぬべき御もてなしなり。」の「なり」は、断定の助動詞「なり」の「終止形」
→ 後の世の人々の語り草にもきっとなるに違いないようなご寵愛である。
「世の例にもなりぬべき御もてなしなり」品詞分解
「世の例にもなりぬべき御もてなしなり。」
世 → 名詞
の → 格助詞
例 → 名詞
に → 格助詞
も → 係助詞
なり → ラ行四段活用・動詞・連用形
ぬ → 完了・助動詞・終止形
べき → 推量・助動詞・連体形
御もてなし → 名詞
なり → 断定・助動詞・終止形
「世の例にもなりぬべき御もてなしなり。」
→ 後の世の人々の語り草にもきっとなるに違いないようなご寵愛(ちょうあい)である。
未然形接続 已然形接続の助動詞
未然形に接続する助動詞、已然形に接続する助動詞も覚えてしまいましょう。
「未然形接続の助動詞は、11個、る・らる・す・さす・しむ・ず・む・むず・じ・まし・まほし」
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「徒然草」を扱っています → 是以 以是 而 漢文・古文を読めるように
已然形接続の助動詞は、特殊なので、注意しましょう。
「完了・存続の意味の『り』」だけです。
ただし、完了・存続の「り」は、四段活用動詞の已然形とサ変動詞の未然形に接続します。
ひとつだけ、さみしい、り、と覚えてしまいましょう。
→ ひとつだけ、サ未・四已、「り」。
→ サ行未然・四段已然の「り」です。この形は、「り」、ひとつだけです。
助動詞の接続
助動詞の接続は、多面的な読解のためにも覚えてしまいましょう。
未然形接続の助動詞は、11個 → る・らる・す・さす・しむ・ず・む・むず・じ・まし・まほし
連用形接続は、7つ → き・きり・つ・ぬ・たり・けむ・たし
終止形接続は、6つ → べし・らし・らむ・まじ・めり・なり
体言・連体形接続は、3つ → なり・たり・ごとし
ひとつだけ、サ未・四已、「り」