芥川龍之介 代表作 文学史 基本の知識
芥川龍之介 代表作
芥川龍之介の代表作を、発表の時期と内容から分類します。
前期
王朝物
「羅生門」……死人の髪の毛を抜きとっていた老婆から、着物をはぎとる男を描く。
「鼻」
「芋粥」(いもがゆ)
「地獄変」……「宇治拾遺物語」「古今著聞集」から題材を得た作品。自分の一人娘が焼かれるさまを見て、屏風を描いた良秀。
「藪の中」(やぶのなか)
※王朝物とは、「今昔物語集」などの説話文学から題材を得た作品です。
切支丹物(南蛮物)
「悪魔と煙草」
「奉行人の死」
「西方の人」
※切支丹物(南蛮物)とは、キリスト教、西欧の倫理観から題材を得た作品です。
江戸物
「戯作三昧」(げさくざんまい)……「馬琴日記抄」から題材を得た作品。晩年、自信をなくした滝沢馬琴が、孫の言葉に気力を取り戻す。
「枯野抄」
開化物(文明開化期物)
「開化の殺人」
「舞踏会」
「雛」
現代物
「手巾」(はんけち)
「蜜柑」(みかん)
「秋」
「トロッコ」
後期
「河童」(かっぱ)
「或阿呆の一生」(あるあほうのいっしょう」
「歯車」……遺稿となります。(遺稿とは、未発表原稿のこと)
ぼんやりした不安
龍之介は、心身の健康を損ね、自己存在の不安に神経をすりへらします。そうして、自らの命を絶ちます。
「ぼんやりした不安」とは、「或旧友へ送る手紙」の中で龍之介が記した言葉です。
新現実主義・新思潮派
新現実主義
白樺派の理想が空想的なものであるとし、新しい視点から現実を見つめなおそうとしたのが、「新現実主義」です。
「白樺派」についてはこちらをどうぞ → 文学史 自然主義と反自然主義の基本知識
短編の名手
龍之介は、現実を理知により、再構成し、唯美的理知的傾向の作品を発表していきます。そうして、「短編の名手」と呼ばれることになります。
群衆は眼中に置かない方が身体の薬
小説を書き出したばかりの龍之介は、周りからの評価がさんざんで自信をなくしていました。
それを救ったのが、漱石だったんです。
「鼻」を激賞する龍之介への手紙です。
ああいうものをこれから二三十並べて御覧なさい。文壇で類のない作家になれます。しかし「鼻」だけでは恐らく多数の人の眼に触れないでしょう。触れてもみんなが黙過するでしょう。そんな事に頓着しないで、ずんずん御進みなさい。群衆は眼中に置かない方が身体の薬です。
龍之介は、我が道をずんずん進むわけです。
そうして、漱石の言葉の通り、「文壇で類のない作家」となります。
新思潮派
文芸雑誌「新思潮」は、小山内薫の編集による創刊から、第2次新思潮(小山内薫、谷崎潤一郎ら)を経て、第3次新思潮(山本有三、久米正雄、芥川龍之介、菊池寛ら)、第4次新思潮(久米正雄、芥川龍之介、菊池寛ら)となります。
この「新思潮」に属した人々を、「新思潮派」といいます。
芥川龍之介が参加したのは、第3次新思潮、第4次新思潮です。
「鼻」は第4次新思潮に掲載されました。漱石はそれを読み、龍之介に手紙を記したわけです。
「鼻」 冒頭文
禅智内供(ぜんちないぐ)の鼻と云(い)へば、池の尾で知らない者はない。長さは五六寸あつて上唇(うはくちびる)の上から顎(あご)の下まで下つている。形は元も先も同じやうに太い。
龍之介と鷗外 「歴史離れ」と「歴史其儘」
芥川龍之介と森鷗外の歴史小説へのスタンスには、違いがあります。
龍之介は、近代人のエゴイズム・自尊心を描きます。その舞台を歴史に求めました。
この龍之介の作風を「歴史離れ」といいます。
鷗外は、歴史的事実を重視し、それを忠実に描きます。舞台は歴史です。
この鷗外の作風を「歴史其儘(そのまま)」といいます。