源氏物語「雀の子を犬君が逃がしつる」若紫との出会い 現代語訳 品詞分解 垣間見 その2
紫式部の「源氏物語 垣間見」その2です。
原文、現代語訳、品詞分解、と記していきます。
有名で、みなさん、お馴染みの箇所ですね。「雀の子を犬君が逃がしつる」のところです。
若紫との出会い 垣間見 その2 原文
「何事ぞや。わらはべと腹立ち給へるか」とて、尼君の見上げたるに、少し覚えたる所あれば、子なめりと見給ふ。
「雀の子を犬君(いぬき)が逃がしつる。伏籠(ふせご)の中に籠めたりつるものを」とて、いと口惜しと思へり。
この居たる大人、「例の、心なしの、かかるわざをしてさいなまるるこそ、いと心づきなけれ。いづ方へか罷りぬる。いとをかしうやうやうなりつるものを。烏(からす)などもこそ見つくれ」とて立ちて行く。
髪ゆるるかにいと長く、めやすき人なめり。
少納言の乳母(めのと)とぞ人いふめるは、この子の後見(うしろみ)なるべし。
尼君、「いで、あな幼や。いふかひなうものし給ふかな。おのがかく今日明日に覚ゆる命をば、何とも思したらで、雀慕ひ給ふ程よ。『罪得ることぞ』と常に聞ゆるを、心憂く」とて、「こちや」といへば、ついゐたり。
若紫との出会い 垣間見 その2 現代語訳
「何事ぞや。わらはべと腹立ち給へるか」とて、尼君の見上げたるに、少し覚えたる所あれば、子なめりと見給ふ。
(尼君が)「どうしました。子どもたちといさかいをされたのですか」と言って、尼君が見上げている顔に、(女の子が)少し似ているところがあるから、尼君の子のようだと(源氏の君は)御覧になる。
「雀の子を犬君(いぬき)が逃がしつる。伏籠(ふせご)の中に籠めたりつるものを」とて、いと口惜しと思へり。
(女の子は)「雀の子を犬君が逃がしちゃったの。伏籠の中に入れておいたのに」と言って、大変残念と思っている。
この居たる大人、「例の、心なしの、かかるわざをしてさいなまるるこそ、いと心づきなけれ。いづ方へか罷りぬる。いとをかしうやうやうなりつるものを。烏(からす)などもこそ見つくれ」とて立ちて行く。
この座っていた女房が、「例によって、うかつ者が、こんな不始末をして叱られるなんて、本当にいやになる。(雀の子は)どこへ行ってしまったのでしょうか。本当にかわいくだんだんなっていたのに。烏などが見つけたら大変なのに」と言って立って行く。
髪ゆるるかにいと長く、めやすき人なめり。
髪は大そう長く、見苦しくない人のようである。
少納言の乳母(めのと)とぞ人いふめるは、この子の後見(うしろみ)なるべし。
少納言の乳母と、他の人が呼んでいるらしい(この女房は)、この子の世話役なのであろう。
尼君、「いで、あな幼や。いふかひなうものし給ふかな。おのがかく今日明日に覚ゆる命をば、何とも思したらで、雀慕ひ給ふ程よ。『罪得ることぞ』と常に聞ゆるを、心憂く」とて、「こちや」といへば、ついゐたり。
尼君は、「なんとまあ、幼い。しようのなくいらっしゃることよ。私がこのように、今日か明日かにせまっている命を、何とも思っていらっしゃらないで、雀の後をお追いになる様よ。『(生き物を捕らえるのは)仏罪になることですよ』といつも申し上げているのに、情けないこと」と言って、(尼君は)「こちらへいらっしゃい」と(女の子を)呼ぶと、(女の子は尼君のところへ行き、膝をつき)ちょこんと座った。
若紫との出会い 垣間見 2 品詞分解
「何事ぞや。わらはべと腹立ち給へるか」とて、尼君の見上げたるに、少し覚えたる所あれば、子なめりと見給ふ。
何事 → 名詞
ぞ → 係助詞
や → 間投助詞
わらはべ → 名詞
と → 格助詞
腹立ち → 動詞・タ行四段活用・連用形
給へ → 補助動詞・ハ行四段活用・已然形
る → 助動詞・完了・連体形
か → 係助詞(疑問)
とて → 接続助詞
尼君 → 名詞
の → 格助詞
見上げ → 動詞・ガ行下二段活用・連用形
たる → 助動詞・完了・連体形
に → 格助詞
少し → 副詞
覚え → 動詞・ヤ行下二段活用・連用形
たる → 助動詞・完了・連体形
所 → 名詞
あれ → 動詞・ラ行変格活用・已然形
ば → 接続助詞
子 → 名詞
な → 助動詞・断定・連体形(な【ん】)
めり → 助動詞・推量・終止形
と → 格助詞
見 → 動詞・マ行上一段活用・連用形
給ふ → 補助動詞・ハ行四段活用・終止形
「雀の子を犬君(いぬき)が逃がしつる。伏籠(ふせご)の中に籠めたりつるものを」とて、いと口惜しと思へり。
雀 → 名詞
の → 格助詞
子 → 名詞
を → 格助詞
犬君 → 名詞
が → 格助詞
逃がし → 動詞・サ行四段活用・連用形
つる → 助動詞・完了・連体形
伏籠 → 名詞
の → 格助詞
中 → 名詞
に → 格助詞
籠め → 動詞・マ行下二段活用・連用形
たり → 助動詞・完了・連用形
つる → 助動詞・完了・連体形
ものを → 間投助詞
とて → 格助詞
いと → 副詞
口惜し → 形容詞・終止形
と → 格助詞
思へ → 動詞・ハ行四段活用・已然形
り → 助動詞・完了・終止形
この居たる大人、「例の、心なしの、かかるわざをしてさいなまるるこそ、いと心づきなけれ。いづ方へか罷りぬる。いとをかしうやうやうなりつるものを。烏(からす)などもこそ見つくれ」とて立ちて行く。
こ → 代名詞
の → 格助詞
居 → 動詞・ワ行上一段活用・連用形
たる → 助動詞・完了・連体形
大人 → 名詞
例の → 副詞
心なし → 名詞
の → 格助詞
かかる → 動詞・ラ行変格活用・連体形
わざ → 名詞
を → 格助詞
し → 動詞・サ行変格活用・連用形
て → 接続助詞
さいなま → 補助動詞・マ行四段活用・未然形
るる → 助動詞・受身・連体形
こそ → 係助詞
いと → 副詞
心づきなけれ → 形容詞・已然形
いづ方 → 代名詞
へ → 格助詞
か → 係助詞
罷り → 動詞・ラ行四段活用・連用形
ぬる → 助動詞・完了・連体形
いと → 副詞
をかしう → 形容詞・連用形(ウ音便)
やうやう → 副詞
なり → 動詞・ラ行四段活用・連用形
つる → 助動詞・完了・連体形
ものを → 間投助詞
烏 → 名詞
など → 副助詞
も → 係助詞
こそ → 係助詞
見つくれ → 動詞・カ行下二段活用・已然形
とて → 係助詞
立ち → 動詞・タ行四段活用・連用形
て → 接続助詞
行く → 動詞・カ行四段活用・終止形
髪ゆるるかにいと長く、めやすき人なめり。
髪 → 名詞
ゆるるかに → 形容動詞・連用形
いと → 副詞
長く → 形容詞・連用形
めやすき → 形容詞・連体形
人 → 名詞
な → 助動詞・断定・連体形(な【ん】)
めり → 助動詞・推量・終止形
少納言の乳母(めのと)とぞ人いふめるは、この子の後見(うしろみ)なるべし。
少納言 → 名詞
の → 格助詞
乳母 → 名詞
と → 格助詞
ぞ → 係助詞
人 → 名詞
いふ → 動詞・ハ行四段活用・終止形
める → 助動詞・推量・連体形
は → 係助詞
こ → 代名詞
の → 格助詞
子 → 名詞
の → 格助詞
後見 →名詞
なる → 助動詞・断定・連体形
べし → 助動詞・推量・終止形
尼君、「いで、あな幼や。いふかひなうものし給ふかな。おのがかく今日明日に覚ゆる命をば、何とも思したらで、雀慕ひ給ふ程よ。『罪得ることぞ』と常に聞ゆるを、心憂く」とて、「こちや」といへば、ついゐたり。
尼君 → 名詞
いで → 感動詞
あな → 感動詞
幼 → 形容詞・語幹
や → 間投助詞
いふかひなう → 形容詞・連用形(ウ音便)
ものし → 動詞・サ行変格活用・連用形
給ふ → 補助動詞・ハ行四段活用・連体形
かな → 終助詞
おの → 代名詞
が → 格助詞
かく → 副詞
今日明日 → 名詞
に → 助動詞・断定・連用形
覚ゆる → 動詞・ヤ行下二段活用・連体形
命 → 名詞
をば → 格助詞
何 → 代名詞
と → 格助詞
も → 格助詞
思し → 動詞・サ行四段活用・連用形
たら → 助動詞・完了・未然形
で → 接続助詞
雀 → 名詞
慕ひ → 動詞・ハ行四段活用・連用形
給ふ → 補助動詞・ハ行四段活用・連体形
程 → 名詞
よ → 終助詞
罪 → 名詞
得る → 動詞・ア行下二段活用・連体形
こと → 名詞
ぞ → 係助詞
と → 格助詞
常に → 副詞
聞ゆる → 動詞・ヤ行下二段活用・連体形
を → 接続助詞
心憂く → 形容詞・連用形
とて → 接続助詞
こち → 代名詞
や → 間投助詞
と → 格助詞
いへ → 動詞・ハ行四段活用・已然形
ば → 接続助詞
ついゐ → 動詞・ワ行上一段活用・連用形
たり → 助動詞・完了・終止形
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