文学史 自然主義と反自然主義の基本知識

自然主義

「自然主義」は、理想化を行わず、醜悪なものも厭(いと)わず、現実をありのままに描写します。

別角度からいえば、無理想、無解決を標榜していくこととなります。

つまり、あるがままに捉えるだけ。

そこで終わってしまうわけです。

理想化がない。

もっとも、読む側が、自然主義の作品を読んで、理想化ができれば、それはそれで良いわけなんですけどね。

小説の意義の一つは、「考えさせる」ことですから。

島崎藤村、田山花袋、徳田秋声、正宗白鳥などが、自然主義の作家です。

島崎藤村

島崎藤村

藤村は、浪漫詩から、自然主義へと転身します。

「破戒」「春」「家」「新生」「嵐」「夜明け前」など。

「破戒」は、自然主義を導く作品となります。

そうして、藤村は、「春」「家」「新生」を書いていきます。

これらは、社会性を失った、自己告白的な作品となっています。

田山花袋

田山花袋

「蒲団(ふとん)」「生」「妻」「縁」「田舎教師」「時は過ぎゆく」「一兵卒の銃殺」など。

「蒲団」は、「破戒」と並ぶ自然主義文学の二大支柱です。

赤裸々な告白、現実暴露を特色として、「私小説」の端緒といえる作品です。

「生」「妻」「縁」は、田山花袋の自伝三部作です。

徳田秋声

徳田秋声

「足迹(あしあと)」「黴(かび)」「爛(ただれ)」「あらくれ」「新世帯(あらじょたい)」「仮装人物」「縮図」など。

徳田は、無理想、無解決を標榜する自然主義の確立者となります。

正宗白鳥

正宗白鳥

「何処へ」「泥人形」「牛部屋の臭ひ」「微光」「入江のほとり」など。

虚無的、傍観者的であるのが、正宗白鳥の特色です。

自然主義作家たち

自然主義を推し進めた作家たちを挙げておきます。

刹那主義的で、一元描写を特色とする岩野泡鳴(ほうめい)

評論家の島村抱月

「南小泉村」の真山青果

「別れたる妻に送る手紙」の近松秋江

自然主義という大きな潮流 

自然主義は大きな潮流です。

自然主義小説は、「私小説」というスタイルも生みます。

「私小説」を語った久米正雄の言葉を紹介します。

「私は第一に、芸術が真の意味で、別な人生の『創造」だとは、どうしても信じられない。そんな一時代前の、文学青年の誇張的至上感は、どうしても持てない。そして只私に取っては、芸術はたかが其の人々の踏んで来た、一人生の『再現』としか考えられない。」

久米は、小説は「私小説」、と捉えています。

もっとも、大衆小説家として名を成した久米の腹の底には、「文学」への憧憬があったようです。

大御所、島崎藤村の言葉も紹介しておきましょう。

「人生は大なる戦場である。作者は則(すなわ)ちその従軍記者である。━━斯(こ)う考えて、遠く満州の野にある友人等も、小説に筆を執りつつある子も、同じ勤めに服していると思い慰めた。」

久米や藤村に対し、無頼派の石川淳は言っています。

「小説は生活の再現だとか作者は人生の従軍記者だとかいうたぐいの、一ころ流行した無邪気な諺(ことわざ)には、目下取り合わないことにしよう。」 

石川は、「私小説」「自然主義小説」を批判したのでした。

反自然主義

「自然主義」の作風に反したのが、「余裕派」「耽美派」「白樺派」です。

「余裕派」「耽美派」「白樺派」は、「反自然主義」に位置づけられます。

そこには、物事の「本質」を捉えようとする「思考」がありました。

余裕派   

「自然主義」がおちいった余裕のない文学に対して、余裕のある立場が「余裕派」です。

夏目漱石と森鷗外が、「余裕派」と位置づけられます。

「余裕」とは、思考力です。

「余裕派」は、「高踏派(こうとうは)」ともいわれます。

夏目漱石

夏目漱石

「吾輩は猫である」「倫敦塔」「坊ちゃん」「草枕」「虞美人草」「三四郎」「それから」「門」「彼岸過迄」「行人」「こころ」「道草」「明暗」など。

森鷗外

森鷗外

「舞姫」「雁」「阿部一族」「渋江抽齋」「高瀬舟」など。

耽美派

「耽美派」は、官能的、退廃的で、美に最高の価値を置きます。

永井荷風、谷崎潤一郎、佐藤春夫などが、「耽美派」と位置づけられます。

永井荷風

永井荷風 

「あめりか物語」「すみだ川」「腕くらべ」「おかめ笹」「濹東綺譚」「断腸亭日乗」など。

谷崎潤一郎

谷崎潤一郎

「刺青(しせい)」「少年」

谷崎は、大正後期から伝統美に傾倒していきます。

「蓼喰ふ虫」「春琴抄」「細雪」「「少将滋幹の母」など。

佐藤春夫

佐藤春夫

佐藤は、永井荷風に師事しました。

「田園の憂鬱」「都会の憂鬱」「晶子曼陀羅」など。

白樺派

理想主義的な人道主義に基づき、自我の尊重を主張します。

「白樺派」には、武者小路実篤、志賀直哉、有島武郎などがいます。

雑誌「白樺」を中心に活躍しました。

武者小路実篤

武者小路実篤

「お目出たき人」「その妹」「人間万歳」「愛欲」「真理先生」など。

志賀直哉

志賀直哉

「城の崎にて」「和解」「小僧の神様」「暗夜行路」など。

有島武郎

有島武郎

「宣言」「或る女」「カインの末裔」「生れ出づる悩み」など。

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2021年4月13日「雑記帳」

Posted by 対崎正宏