形式名詞 ひらがな書きの「こと」 漢字の「事」 転成名詞の意味
主語になる名詞
「~が」、「~は」という主語の形になる語は、名詞であるわけですが、この名詞、実に多様です。
それは、文章を記す人間が、本来、多様である、ということです。
人間が扱う言葉の根本は、主語であり、名詞です。
主語の名詞によって、文が成り、文章が成ります。
多様性は、人間そのものであり、名詞そのものなんです。
ここでは、名詞の多様性を、やさしく解説します。
形式名詞
「もの」や「こと」を形式名詞といいます。
「もの」や「こと」自体は、意味を持っていません、しかし、形の上では名詞となる語なので、「形式名詞」と称されます。
形式名詞は、ひらがな書き
形式名詞は、ひらがな書きが基本です。
漢字は、意味を持った文字で、「表意文字」といいます。
ひらがなは、意味を持たない音節文字で、「表音文字」といいます。
形式名詞は意味を持たない文字ですから、「ひらがな」書きが基本なんです。
試験の答案やポスター等で、「~こと」と結ぶ場合がありますね。
その場合の「こと」は、ひらがな書きです。
例
廊下を走らないこと!
月に着陸したということ。
注意 例
事は重大だ。
上記の「注意 例」の場合、「事」は、形式名詞ではありません。
この「事」は、事件、出来事という意味を持った、れっきとした名詞です。
漢字表記すべき「事」です。
形式名詞の主となる意味
名詞ではない語が、「もの」や「こと」と合体して、主語になる場合があります。
「もの」や「こと」といった形式名詞の直前の語が、主語の主たる意味となります。
※スマホを横向きにしてご覧ください
例
泳ぐことが、大好きだ。
→ 主語「泳ぐことが」では、「泳ぐ」が主たる意味
→ 「泳ぐ」という動詞の持つ意味に留意して、読解、記述すべき、ということです。
美しいことが、大切だ。
→主語「美しいことが」では、「美しい」が主たる意味
→ 「美しい」という形容詞の持つ意味に留意して、読解、記述すべき、ということです。
転成名詞
ある語が、他の品詞の語になることを、「転成」といいます。
元元は名詞でない語が、転成して、名詞になったものを、「転成名詞」といいます。
例
泳ぐ(動詞) ━ 転成 → 泳ぎ(名詞【転成名詞】)
美しい(形容詞) ━ 転成 → 美しさ(名詞【転成名詞】)
転成名詞は、もちろん名詞ですから、文の成分として、主語になります。
例
泳ぎが、不自然だ。(「泳ぎが」=主語)
美しさが、際立っている。(「美しさが」=主語)
転成名詞が含み持つ意味
注意してください。転成名詞は、元元の品詞の意味を含み持っています。その意味が強調されます。
例
泳ぎが、不自然だ。
→ 「泳ぐ」という動詞の持つ意味に注意
→ 動詞は、動作、作用の意味を表します。
→ 動作とは、事を行おうとする動きの意で、作用とは、その場の相互間に生じる影響の意です。
→ この「泳ぎ」という名詞は、「泳ぐ」という動作の意味、「泳ぐ」ことで、その場に生じる影響の意味を、含み持っているわけです。
美しさが、際立っている。
→ 「美しい」という形容詞の持つ意味に注意
→ 形容詞は、性質、状態、心情を表します。
→ 性質とは、気質であり、特色であり、固有するものの意で、状態とは、外面からもわかる有り様であり、様子の意で、心情とは、心の中の思いであり、気持ちです。
→ この「美しさ」という名詞は、「美しい」という内面、外面の性質と状態を表し、これを見ている書き手の気持ちを表しているわけです。
転成名詞の多様性
口語文法において、転成名詞は、特に多様です。さらに、例を記しておきます。
例
ドキドキが、たまらない。
→ 「ドキドキ」は本来、副詞だが、例では転成名詞となって、「ドキドキが」は主語になっている。
やったーが、聞きたいよ。
→ 「やったー」は本来、感動詞だが、例では転成名詞となって、「やったーが」は主語になっている。
それからが、彼の口癖だ。
→ 「それから」は、本来、接続詞だが、例では転成名詞となって、「それからが」は主語になっている。
上記の例においては、それぞれ、副詞、感動詞、接続詞の持つ意味を注意すべきなんです。
それぞれの知識は、結びつけて使用できて、はじめて、自身の理解となり、自身の扱える言葉、意味となります。
(どうぞ、このカテゴリーの基本文法や、「読解力向上 思考の周辺」で、副詞、感動詞、接続詞の持つ意味も、確認してみてください。)
カテゴリー「日本語 文法を基礎から読解、記述へ」→ サイトマップ
主語の中身は、多様である
主語は、多様です。
それは、主語をつくる名詞が多様だからです。
元元、名詞ではない品詞まで、名詞となって、主語となるからです。
多様性を理解するとは、その中身、構造を、理解するということです。
文の起点とも、基点ともなる主語、それをつくる名詞の理解は、文の理解、文章の理解に必須です。