難し 読み方「かたし」「がたし」「行うは難し」
「かたし」か「がたし」か
知人からの質問があって、答えたので、こちらにも記しておきます。
質問
「歌会初で、天皇陛下の『~往き来難かる』の『難かる』を、朗詠で『がたかる」としたように聞こえました。私の耳が腐ってたのかもしれませんが。
昔、同時通訳者の人が、『言うは易く 行うはがたし』と言ったのを覚えています」
「往き来難かる」の「読み方」ですね。
「往き来がたかる」か、「往き来かたかる」か、という質問です。
文語、古語ですね。
私の知人は、「往き来かたかる」と考えたわけです。
そして、「言うは易く 行うはかたし」と。
どうでしょう。
あなたなら、どう読みますか。
答えは、この下 ↓
答えは、ここ、ここ ↓
「難し」は形容詞
答え
「往き来難かる」は、「ゆききがたかる」です。
この「難かる」は、「がたかる」と読みます。
そして、「言うは易く 行うは難し」の「難し」は、「かたし」です。
この「難し」は、「かたし」と読みます。
同時通訳者の「言うは易く 行うはがたし」は、誤りですね。
複合語「~難かる」
「~難かる」
「往き来難かる(ゆききがたかる)」は、複合語です。
「複合語」とは、二つ以上の品詞が合体したものです。
「往き来難かる」
=「往き来 + 難かる」
=「往き来(動詞)+ 難かる(形容詞)」
= 複合語
「複合形容詞」
「往き来難かる」は、「複合語」で、さらに細かくいえば、「複合形容詞」です。
「複合形容詞」」は、11品詞の区分でいえば、「形容詞」です。
「往き来難かる」を言い切りの形(終止形)にすると、「往き来難し(ゆききがたし)」です。
11品詞 → 動詞・形容詞・形容動詞・名詞・代名詞・副詞・連体詞・接続詞・感動詞・助動詞・助詞
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「接尾語」
「~難し」=「複合形容詞」
「往き来難し」のように、「複合語(複合形容詞)」となった「難し」は、独立した一語とは、なりません。
このような「語」を「接尾語」といいます。
「接尾語」となった「難し」は、「がたし」と読みます。濁ります。
活用形
活用形から、さらに説明を付せば、「形容詞」の「難し(かたし)」は、動詞の連用形に接続して複合語(複合形容詞)になると、「~難し(がたし)」と濁ります。
「往き来難し」=「往き来+難し」
→「往き来(動詞・連用形)+ 難し(形容詞・終止形)」
→「往き来難し(【複合】形容詞・終止形)」
→「ゆききがたし」
→「難し」は接尾語
「言うは易く行うは難し」
「言うは易く 行うは難し」
「行うは難し」
「往き来難し」の「難し」、「往き来難かる」の「難かる」は、接尾語になっています。
それに対し、「言うは易く 行うは難し」の「難し」は接尾語になっていません。確かな「形容詞」です。
この「難し」は、「かたし」と読みます。濁りません。
「往き来難かる 世はつづき」
天皇陛下は、「世界との往き来難かる世はつづき窓開く日を偏に願ふ」と詠まれました。
「せかいとのゆききがたかるよはつづきまどひらくひをひとへにねがふ」
活用形
「往き来難かる 世はつづき」
→「往き来難かる」「世」
→「ゆききがたかる」「よ」
「往き来(動詞・連用形)+ 難かる(形容詞・連体形)」「世(名詞)」
「難し」の連体形「難かる」
「往き来難かる 世はつづき」
「往き来難かる」は、「往き来難し」の連体形です。
「難し『かた・し』」の活用は、「(く)・から/く・かり/し/き・かる/けれ/かれ」。
「往き来難かる世」
「往き来難かる」は、「世」という名詞と接続しているので、「連体形」です。
「往き来難かる世」ですね。「ゆききがたかるよ」。
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意味・訳
「世界との往き来難かる世はつづき窓開く日を偏に願ふ」
(せいかいとのゆききがたかるよはつづきまどひらくひをひとへにねがふ)
→ 「世界との往き来難(がた)かる世はつづき 窓開く日を偏(ひとへ)に願ふ」
→ 世界との往き来が困難な世が続く 窓が開く日を一途(いちず)に願う。
→ 世界との往き来が難しいコロナ禍が続く(【けれども、】ふたたび、世界との)窓が開く日を一途に願う。
万卒は得易く一将は得難し
「がたし」と濁る例は、けっこう、みなさん、馴染みがあると思われます。
「万卒は得易く一将は得難し」
(ばんそつはえやすくいっしょうはえがたし)
意味
平凡な兵士を、得ること(集めること)は、容易だが、一人の名将を得ることは難しい。
この原義(げんぎ)より、平凡な人間と出会うのは容易(たやす)いことだが、優れた人物と出会うのはとても難しい。
「万卒は得易く一将は得難し」の「得難し」は、11品詞の区分でいえば「形容詞」ですが、厳密にいえば「複合語『複合形容詞』」です。
そして、この「難し」は、「得」の「接尾語」となっています。
「得難し(【複合】形容詞・終止形)」
→「得(動詞・連用形)+ 難し(形容詞・終止形)」
→「えがたし」
「がたし」と濁ります。
「堪へ難し」なども、「たへがたし」と濁りますね。
現代語でいえば、それぞれ、「得難い(えがたい)」、「堪え難い(たえがたい)」です。(活用形の考え方は、現代語も同じです。)
「かたし」と「がたし」、もうバッチリですね。
「言うは易く行うは難し」の「難し」は「かたし」です。濁りません。
「世界との往き来難かる世はつづき窓開く日を偏に願ふ」
「往き来難かる世はつづき」、朗詠は「がたかる」で、OK牧場でした。
そりゃ、朗詠(ろうえい)する方、「歌会始」で、間違えませんよね。