三四郎 夏目漱石 解説 その2

意味の連続性 

意味の連続性を意識しましょう。

それにより内容が鮮明になります。

三四郎 夏目漱石 解説 その1 をおさえた上で、続きをどうぞ

三四郎 夏目漱石 解説 その1  

「三四郎」 夏目漱石

 美禰子は三四郎を見た。三四郎は上げかけた腰を又草の上に卸した。その時三四郎はこの女にはとても叶(かな)わない様な気が何処かでした。同時に自分の腹を見抜かれたという自覚に伴う一種の屈辱をかすかに感じた。

「迷子」

 女は三四郎を見たままでこの一言を繰返した。三四郎は答えなかった。

「迷子の英訳を知っていらしって」

 三四郎は知るとも知らぬとも言い得ぬ程に、この問を予期していなかった。

「教えて上げましょうか」

「ええ」

「迷える子(ストレイシープ)━━解って?」

心情を読み取る

「その1」で、「三四郎」の心情を読み取りました。

その上で二段落を読むと、「美禰子」の心情もまた深く感じられるでしょう。

一段落の「見た」、二段落の「見たまま」を確認してください。

「美禰子」はずっと「三四郎」を「見」ているんです。 

そうして、「迷子(まいご)」という言葉を「繰返」すんです。

 繰り返せば、重要な意味が生まれます。

(漱石は、「迷子」を、「この一言」という指示語で指し示す書き方をしています。

指示語は、今、ポイントが何であるかを明確に示す言葉です。

指示語を使えば、指し示している言葉が重要である、という書き方になるんです。)

この「迷子」は、一般的な意の迷子ではありません。「美禰子」は、それを「三四郎」に気づいてもらいたくて、「迷子の英訳を」、自ら、「教え」ます。「迷える子(ストレイシープ)」と。

「迷える子(ストレイシープ)」は、「美禰子」自身です。

「美禰子」は、自分が恋愛の迷(まよ)い子(ご)であると言っているんです。

「美禰子」は、自分のことを、自分の気持ちを、「三四郎」に「解って」ほしいんです。

だからこそ、「解って?」と訊ねるんです。(「わかった?」と訊いています。)

 主人公ではない人物の、言葉だけ、あるいは動作だけを追って読むのも、深い内容理解につながります。視点を変えての思考につながるからです。

 もちろん、そういう読み方ができるのは、一級品の作品です。

 限りある自分の人生の時間の中で、本を読むなら、できるだけ確かなものを読みたいものです。

その3に続きます → 三四郎 夏目漱石 解説 その3